大和高原の一角、標高350〜500?の桜井市三谷に、日本を代表する里山と認められた景観が広がる。「山野草の里」だ。大和川本流の源流地域でもある。実はこの風景、今から18年前までは離村による田畑や森林の管理放棄で荒れ、生息する山野草や昆虫も減少しつつあった。
それを甦らせ、この里山の景観と自然環境を守り続けているのが、「山野草の里づくりの会」(村上秀夫理事長/会員45人)だ。当時、荒れる一方の里山に心を痛めていた同地区の福岡定晃さん(前理事長)夫妻が、大学時代の友人、芳原和夫さん(副理事長)の家族や友人、地元の人らと少しずつ里山の自然を取り戻す活動を始めた。
そして2001年に「山野草の里づくりの会」を結成、翌年にはNPO法人化する。自生山野草の調査、放置田畑とその周辺のクロガリ(農地に隣接した山の土手)等の整備、農業用水路や農道の復旧に続き、ビオトープづくりと維持管理、遊休農地での果樹園づくり、里山林の間伐と伐採したクヌギやコナラで炭焼きやシイタケ栽培、古代米の無農薬栽培など、毎週水曜と土曜の2回、三谷の福岡家を拠点に、小夫地区を含めたエリア約3?のフィールドで地道な活動を続ける。
コンセプトは「持ち込まない。持ち出さない」。里山の生態系を守るためだ。徐々に活動範囲も拡大し、困難となった自生山野草の調査及び維持管理活動は、大阪シニア自然大学校卒業生のサークル「里山の山野草を守る会」(2008年結成)に委託、自生山野草の調査及び維持管理を任せる。
また地域住民とも連携、国や奈良県、桜井市、企業からの支援も受け、活動の輪を広げた。その結果、同里は2015年12月に環境省から「生物多様性保全上重要な里地里山」に選定された。
里山保全の主メンバーは、奈良市や橿原市、五條市、東大阪市など遠方からも車で通う50歳代〜80歳代が中心の十数人。文字通り手弁当のボランティアだ。草刈り、田植え、果樹の剪定、野菜苗の定植、水遣り、ビオトープや森林整備……、季節ごとに作業が巡ってくる。
朝9時半に集合したら、その日の作業の打ち合わせ後、各人が持ち場へ向かう。昼は旬の恵みの手料理や持参の弁当で団欒し、午後の作業に移る。取材日は、午前中は畑の草刈り、午後は芋苗植えだった。精力的な活動を続けられるのは、お金や時間に代えがたい楽しみがあるから。珍しい山野草を愛でたり調理して胃袋に収めたり、幼少期の追体験を懐かしんだり、何より仲間との交流が活力の源となる。「お天と様の下で、きれいな空気と季節の景観を満喫しながら仲間と体を動かすのが健康にいいんだ」
現理事長の村上さんは大和高田市在住。法学部を卒業後、銀行マン(事務職)一筋だったが、退職したら地域ボランティアをと考えていた8年前、会のイベント「ホタルの夕べ」に参加。山里の魅力に惹かれ三谷へ通い始める。そして4年前福岡さんの後任となった。
「ここでの僕は全くの素人。市役所職員、農業指導員、エンジニア、大工の棟梁、学校長など、先輩方がそれぞれのキャリアを生かして一つひとつ目標と課題をクリアされてこられた。本音を言いますと、それを継いで守っていくのは大変。えらいこと引き受けたなあと(笑)」
ベテランメンバーの高齢化が課題となり、2017年から奈良森林インストラクター会・奈良NPOセンターの協力で「里山保全ボランティア養成講座」を開催、会員増に尽力している。「月に1回でも、数時間でもいいから、”手“がほしい。そのためにも活動をより魅力あるものにしていかなければね。交通不便なところだけど、まあいっぺん遊びにきてみてください」。