桜井市外山の鳥見山の山裾に、谷川あり樹林帯あり、シーソーやハンモック、ターザンロープなどの手づくり遊具が置かれた子どもの遊び場がある。子どもたちが、自然と一体になって好きなように遊べる里山『彩雲ひろば』だ。地元の園や小学校、子ども会、市のイベントなどで随時活用されている。
主宰・運営しているのは、地主の新井博子さんとそのボランティア仲間14人。2007年、縁あって集まった人たちがパターゴルフ場だった土地を整備、木を植え、畑を作り、里山に戻した。谷川には丸太の橋を架け、山には登山道を付けた。子どもたちが来れば、ケガのないよう付かず離れずの見守りと、木のこと、葉っぱのこと、水のことなどを話して聞かせる。「命の源は、葉っぱ(緑)」と、子どもの年齢に応じた言葉で、人は自然によって生かされていること、だから自然を守っていこうと語りかける。
大学卒業後、教職に就いた新井さん、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』に惹かれ、訳者の上遠恵子氏との縁もできた。折しも高度経済成長時代、あちこちで開発が進み、幼い頃から野山を駆け回り、草花や虫と遊んでいたその里山が荒れていき、新井さんの心にモヤモヤが増殖していった。
そんななか、ナショナル・トラスト運動の存在を知り、日本から10人参加募集記事を偶然目にして応募。1996年英国ナショナル・トラスト日英ベンチャープロジェクトに参加、本物を学ぶことができたという。「開発業者に物申すには、資格が必要?」と宅建資格、森林インストラクター、グリーンセイバーなどの資格を次々に取得。その間、先のプロジェクトにリーダーとしても参加、ボランティアの意味や楽しさも知り得た。
彩雲ひろばには、毎週月曜日メンバーのほとんどが集う。60歳代後半から83歳までの男女半々の14人、職歴はいろいろだが、定年退職し自由な時間ができた人たちが自分のできることをやりに来る。山守の会と掛け持ちの人もいる。先週は20本の檜を間伐して皮を剝いだ。乾燥させて丸太橋や遊具などに使うという。
ここに集うのは、「まず、健康維持。週一のスケジュールで体を動かし、経験も環境も異なる仲間と交流できる。昼食付きだしね」と男性軍。見れば、基地の手づくり小屋で、かまどの羽釜でご飯が炊かれ、他方では大なべに汁物がぐつぐつ。山で間伐した、たきつけが勢いよく燃える。調理は女性陣が主体。手際よく整えていく。
食事しながら見回りで見つけたメンテナンスの必要箇所の報告や次回の作業についての打ち合わせ。取材で訪れた日は、菜の花畑の肥料やりが午後の作業だった。農業経験のある人が肥料の置き方を指導、皆がそれに習う。「三輪山をバックに、一面黄色の菜の花を想像してみて。香りムンムン。蜜蜂や蝶になった気がするほどにうっとりしますよ」と新井さん。
「心がしんどくなったとき、ここで無心に遊んだことを思い出してくれたら…。人は、60歳過ぎたら社会に還元せんとね。受動の福祉ばかりじゃあかんわ。退職したての若い子、寄っといで」と、緑を守る活動を引き継いでくれる人に期待を寄せる。