奈良県室生。山間に広がる里山の風景が美しい。ここに新しい蜂蜜のブランド「むろうはちみつ」が誕生した。その名のとおり、室生で採れる蜂蜜を主にしたもので、的場ふくさんが代表を務める。
六角形の瓶に66832(むろうはちみつ)とハチがデザインされ、センスのよさから贈答品にと百貨店でも扱われる。
始まりは2014年。的場さんが室生の養蜂家・原安則さん(74)の蜂蜜に出会ったことから。「こんなにおいしい蜂蜜が室生で採れるなんて」と驚きと感動で、すぐに虜になった。
的場さんは室生生まれの室生育ちだが、大学卒業後は大阪でデザインなどの仕事をし、7年間一人暮らしをしていた。離れてよけい室生の魅力に気づいた的場さんは、原さんの蜂蜜を世に送り出したい、室生をもっと知ってほしいとの思いで、原さんから蜂蜜を卸してもらいたいと交渉。会社に勤務しながら、休日に行われるマルシェなどに出してみたら、思った以上に好評を得た。
「自分の大好きな室生にこんなにいいものがあったと思うと、無我夢中になって気がついたら蜂蜜屋になっていました」。
2017年に勤務先の会社を退社し、本格始動。商品開発をする上でプロデュースは重要戦略だ。ブランド価値が上がるよう、自らブランドマークやパッケージをデザイン、梅田・阪急百貨店のパンフェアに出店したのを機に、奈良ブランド品として重宝されるようになった。
原さんの蜂蜜は、採蜜量の安定した西洋ミツバチによって作られる。1つの巣箱に3万〜4万匹、これが約40箱以上。
花の蜜は、季節や場所によって違うし、毎年採蜜できるものもあれば何年かに1度しか咲かない花もある。室生は山間部なので、春には山桜やハゼノキ、初夏はそよごやこしあぶらといった樹木の花の蜜がよく採れる。原さんは室生からさらに足を伸ばし、平野部の斑鳩にも巣箱を置いて、れんげやヘアリーベッチの蜂蜜も採取している。大きな特徴は、原さんの蜂蜜には農薬が入っていないことだ。安全安心なものを届けたいと、的場さんが農薬・抗生物質残量検査を実施し、安全は保証済みだ。
採蜜は年に1度、4月下旬〜6月中旬に1年分を採取する。搾った蜂蜜は不純物を丁寧に取り除くと、そのまま瓶に詰める。余計なことを一切しない非加熱の蜂蜜は、風味もよく栄養も豊かだそうで、「手間暇かけた蜂蜜の味をぜひ知っていただきたいです」と的場さん。
原さんもミツバチについて語りだすと止まらない。働きバチは役割分担していて、育児係、掃除係、蜂蜜を作る係、門番、蜜を集める係など、一生で役割が変わっていく。働くのはすべてメスでオスは交尾以外何もしないとか。また、1匹のミツバチが一生で作ることのできる蜜の量はたったティースプーン1杯。
「花の蜜は水分量が多いので、巣の中でミツバチが羽を震わせて風を送り、水分を飛ばして糖度を上げ、蜂蜜を作るんです。また巣の中が暑過ぎるときも、羽で風を送り温度調節します。健気でしょう」と、原さんの熱弁は続く。
的場さんも販売には自ら出向いて自分の口でミツバチと蜂蜜について語る。「対面販売の方がお客さんの声が直接聞けるし欲しいものを教えてくれる」とのことで、ナッツの蜂蜜漬もお客の要望に応え、現在、発売に向けて商品開発中だ。
心配なことは、ミツバチが温暖化や、地域によっては農薬の影響で減っていることだ。ミツバチは蜂蜜の採取だけでなく、果実を実らせるための受粉という、とても大切な役割を果たしている。
「ミツバチがいなくなると農作物の受粉の約3分の1をミツバチに頼っている人間は困ってしまいます。環境のことも含めて愛するミツバチのことを発信し続けていきたいです」