「イヤコラセー、ドッコイセー♪」
夏の夕暮れに河内音頭や江州音頭の軽快なリズムが響く。老若男女が輪になり踊る、日本の夏の風物詩「盆踊り」。人間関係の希薄化、少子高齢化や景気低迷のあおりを受け夏祭りが縮小・減少傾向にある中、盆踊りの楽しさを伝え、地域の絆を深める人たちがいる。盆踊りのテンポの良い唄と演奏で皆をリードする音頭取りグループ「奈良躍遊会」だ。メンバーは十数人。普段の顔はサラリーマンや主婦。声がかかれば関西各地の盆踊り会場に出向き、生の唄を届けている。
会長の高岡伸和さんは、現在広島県に単身赴任中。週末毎に奈良へ戻り活動を続けている。「帰ってきても夕方から出かけるので、夏は母子家庭と家族からは言われています(笑)」と高岡さん。生まれは旧大宇陀町。幼少の頃、伯父に手を引かれて行った宇太水分神社の夏祭りでは、ご先祖の霊を癒やすための盆踊りが2日間盛大に行われていた。「昔は地域に音頭取りのおじさんがいて、櫓の周りには2重3重と輪ができていました。子どももこの日だけは夜中まではしゃいでいましたよ」
成長するにつれ恥ずかしさが先行し、祭りを避けた時期もあったが、勤務先の寮祭で十数年ぶりに盆踊りに参加。この日、高岡さんは盆踊りの虜となった。休日は奈良や大阪で開催されている盆踊り会場へ。「どんなに疲れていても、3分も踊れば、恍惚感に包まれる。ランナーズ・ハイならぬダンシング・ハイです。また人の輪が生み出すエネルギーも私の元気の源です」。勤務先の踊り好きが次第に集まり盆踊り同好会を発足。多い年で約50か所の祭りを巡り踊り尽くした。常連となった夏祭りで「あんたの踊りを見るのが毎年楽しみなんや」と、声を掛けられることもあり、盆踊りにより強い愛着を感じるようになっていった。
「奈良の盆踊りは減ってきている」と高岡さん。要因は様々だが、踊り子が減り、生の音頭からCDに代わり、徐々に姿を消していっている。「音頭取りによる生の音頭を届けたい」。根っからの踊り好きである高岡さんは強く思う。「体に響く太鼓の音、それだけでも日本人の心は踊り、体が自然に踊りだすものです」。
メンバーが他の団体で音頭などを学び、16年前から音頭取りとしての活動を開始。祭り主催者の経済的負担を軽くするため、音響設備も持ち込んでの出演。9月から5月はボランティアで各種施設を訪問している。会場のノリに合わせて選曲し、若い人も入りやすいよう歌謡曲も音頭に取り入れる。時には高岡さんも踊りの輪に。「私たち音頭取りは盆踊り盛り上げ役です。主役は地域の方々。小さな踊りの輪が次第に大きくなり、踊ることができない人も囃子や手拍子で参加してくれれば音頭取り冥利につきます」
同会が毎年出演する奈良市阪原町の夏祭りでは、若い参加者が目立つ。主催する青年団の猪久保豊孝団長は躍遊会のメンバーとなり、自ら地域の祭りを盛り上げる。「この地に生まれ育った自分が音頭を取ることで普段は参加しない人も集まってくれるようになった。まさに老若男女、地域が一つになれる盆踊りを続けていきたい」と猪久保さん。
盆踊りはスローな”手踊り“と、アップテンポな”マメカチ踊り“を覚えればどんな曲も、誰でも簡単に踊ることができる。「踊れなくても大丈夫。輪に入れば“イチ、ニイ、ハイ、ちょんちょん”って誰かが教えてくれます。世代を超えたそのやり取りもまた魅力」と高岡さん。「恥ずかしいと思うのは最初だけ。一度踊ればみんな笑顔になります。さあ、今年も夏本番! みなさん一緒に踊りましょう!」