香ばしさと素朴な甘みがほんのりと後から追ってくる柿の葉茶。柿の産地として知られる大和の古道、山の辺の道近くにある柿園で、無農薬・無肥料の自然農法で育てられたものだ。この柿葉園を経営するのが平井宗助さん。増加する柿の耕作放棄地を憂い、地球にやさしく継続できる『農』事業、柿の葉ブランド『SOUSUKE』を新たにスタートさせた。
平井さんは老舗、株式会社柿の葉ずし『平宗』の長男として吉野で生まれ、奈良市で育つ。東京の大学を卒業し就職したが、結婚を機に奈良へ。26歳で家業に入り、製造・接客・ネット販売・仕入・営業と様々な経験を積み、40歳からの6年間は代表として会社を支えた。一方で、青年会議所に所属。平城遷都祭やなら国際映画祭、しあわせ回廊 なら瑠璃絵など地域活性事業の運営に携わり、2014年には氷室神社の協力の下、奈良を氷の街として発信する「ひむろしらゆき祭」を開催し人気イベントに成長させている。「若い頃は出たくてたまらなかった奈良。今では奈良の魅力を世界の人に伝えたいと思っています」
奈良県の柿の生産量は全国2位を誇る。だが、高齢化・後継者不足から耕作放棄地は増える一方だ。平井さんは在職中、大半を県外産に頼る柿の葉ずし用の葉を地元農家のものに変えていこうと試みた。1日に1万枚の青葉を塩漬けにし、1年中使い続けるには、収穫量の問題の他、新たな大型設備や人件費、加工のノウハウが必要となり断念せざるを得なかった。1本の木から取れる寿司を包むに適した形、大きさの葉は20%ほど。残りの80%の葉を活用できれば、柿園の活性化にもつながるのではと考え始めたのが2年前のこと。「柿の葉の加工品を作ろう」と柿の葉事業に取り掛かった。しかし、社内には県産柿葉の加工品質やコストを疑問視する声もあった。「1つの方向に向かってこそ会社はうまく動く。このまま続けることは会社に迷惑を掛けてしまう」と代表辞任を決意した。
柿の葉はレモンの約20〜30倍ものビタミンCを含有し、ポリフェノール(カキタンニン・ルチン)も豊富、強い抗酸化作用が期待される。付加価値の高い商品になると自信があった。
「こころ穏やか・からだ健やかに過ごせること。自然に寄り添いながら信仰やお祭りが日常に溶けこんでいる。それが私が考えるこれからの豊かさです。おいしく優しく体に摂取できる製品を研究開発し続けていこうと」。良質な葉を作ることを目的に、冬場は通常の柿園よりも厳しくせんてい剪定、春にはかまいり茶用の新芽の収穫を行う。6月頃から始まる収穫では、汗だくになりながらも1枚1枚丁寧に手摘みする。「猛暑の中の作業でも、緑は心を落ち着かせます」
収穫された柿葉は2軒の茶園の協力により製茶される。茶師の最高位十段の大山泰成氏監修『柿の葉茶 かまいり』は、理想とする香り、色、味わいを求め大淀町の南芳園で釜炒り製法に。柿葉の青々としたフレッシュな香りとすがすが清々しい味わいが特徴だ。人気の『柿の葉茶・まき薪火焙煎 深煎り』は山添村の健一自然農園で真夏の猛暑の中、薪をくべ焙煎。手間のかかる製法だが、自然栽培のお茶の風味を引き出してくれる。その他、健一自然農園の煎茶や和紅茶とのブレンド茶、柿の葉のビタミンCと海塩のミネラルに着目した入浴剤やせっけん石鹸、柿葉塩やドレッシング、ジェノベーゼソースなどの調味料も生み出した。2年間の開発期間を経て作られた製品は、今年8月末に正式に発売。すでに、カフェやパティスリー、レストランやホテルでは、料理やスイーツにも多数使用され、県内外はもとより海外企業からも注目されている。
「生きる原点とも言える農業にいつかは携わってみたいと思っていました。柿の葉にはワクワクとした可能性がまだまだ眠っていますよ」