江戸時代から続く宇陀市平尾水分神社
のおんだ祭り。毎年1月18日にあるが、
ほかのおんだ祭りと違って夜に行われる
非常に幽玄な祭りで、奈良県無形文化財
に指定されている。
こうしたまちの伝統行事をこつこつ取
材し、ケーブルテレビで放映しているの
が、NPO法人「メディアネット宇陀」。
宇陀市の自主放送「うだチャン11」で、
「まちの話題」や「ホットニュース」を
担当する。
そのNPO副理事長として中心的役割
を果たしている稗田睦子さんは、10年前
の立ち上げから現在まで、土日はほとん
ど休む暇もなく、宇陀をくまなく回り、
宇陀の行事や市民の活動、市民の声を拾
い、発信し続けてきた人だ。
稗田さんは、元々宇陀の人ではない。
奈良市の旧家に生まれ育った。若い時か
らガールスカウトの役員を務め、キャン
プなどの野外活動を通して子供たちの育
成に尽力。最後はガールスカウト奈良県
支部長として多忙な日々を送った。50歳を
過ぎた頃、自分がやるべきことは終わっ
たとあっさり一線から退き、次にやるこ
とを探しながら榛原の新興住宅地に移住。
そんな折、奈良県男女共同参画の海外
派遣募集を知り、応募に通ってデンマー
ク・オランダの視察に参加。榛原町で報
告会をしたことがきっかけで、関心のな
かった榛原町と関わるようになった。女
性模擬議会などに参画した人たちととも
に、榛原をどうしたら外へ知らしめるこ
とができるかが次のテーマとなった。
アイデアはぱっと思いつく。畑の野菜
があまっていることを知り、県の助成金
を使って「榛原のかおり便」と名づけて
月2回、野菜の宅配を開始。ひのきチッ
プスをつけて販売したらこれがヒット、
月200セットも売れるようになった。
やがて宇陀の4町村が合併。それに伴
い、ケーブルテレビ「うだチャン」の放
映が決定した。市民目線での発信を求め
られていたことから、NPO法人「メデ
ィアネット宇陀」を仲間と設立し、市の
委託を受けて、宇陀の伝統行事や、市民
の催し物などを紹介する30分番組を作る
ことになった。
番組は毎月10日ごとに更新されるの
で月に最低3本は制作する。
最初は、まずどんな伝統行事があって、
どういうものなのかを知るところから始
まった。「なぜ、誰がどう行っているのか、
根堀り葉堀り聞いてばかりでした」。
カメラマンはいたが、そのほかは皆素
人。稗田さんも、まず企画を練り、取材
をし、撮影を終えたら編集、テロップを
考えナレーションも入れるなど、一人で
何役もこなしてきた。
「宇陀には昔からの風習や文化がその地
域ごとに残っていて、まず驚きました。
そして取材の大変さ。各地域の行事が重
なるので、スタッフは大わらわです」。
たとえば、秋祭りは10月中旬から始ま
り11月初旬まで市内全域で行われ、土
日曜はすべて祭りでつぶれる。宵宮祭、
本宮祭と続けば、夜は遅いし、朝は真っ
暗なうちからスタート。一日中追いかけ
て、終われば膨大な量の編集が待ってい
る。まさに体力勝負だ。
それでも、「この前のすごくよかった」
「榛原に住んでいるから室生のことは知
らなかった」などどんどん増える視聴者
の反響を聞くと、疲れは一気に吹っ飛ん
で、次は何をどう撮ろうかとわくわくす
る。それが原動力になった。
宇陀には地域独特の伝統行事が多い。
たとえば深野の「山の神の鍵引き」。1
月7日に各家の男が山に登り、木に鍵の
形をした枝をひっかけ、「金銀財宝もって
こい」と歌を歌う。女は蔵の戸を開けて
おきその歌が終わった頃を見計らって蔵
を閉める。
また、うたの秋まつりは、宇陀水分
神社の男神と惣社水分神社の女神が年に
一度出会うロマンチックな物語。神輿は
国の重要文化財になっており、千二百年
あまり続いている。
そんな行事に触れるたびに、次世代に
引き継ぐ使命を感じて丁寧に編集する。
「偶然のようで、宇陀に来たのは必然か
もしれません。体力と、楽しい気持ちが
続く限り、宇陀の魅力を伝え続けます」。