4月22日、長い竹竿の先にツツジの花を十字に飾りつけた「天道花」が、天理市福住町の下之坊と西念寺とで高々と掲げられた。標高500〜600m、豊かな自然が残る同地区。山で花を探し、飾りつけたのは地元の子どもたちだ。子どもたちは福住Sジョブズ・スクールに参加する福住小学校と市内外の児童7人。地域行事や季節の歳時を年9回、土曜学習で体験する。
「おつきよか」と呼ばれる「卯月八日の天道花」は、地域で昭和後期まで伝承されていた大和の春の民俗行事。同行事をはじめ、ちまき作り、氷室神社(日本最古)の献氷祭見学、しめ縄作り、とんど祭りや節分行事などに参加する。そのスクールを企画・運営するのが前嶋文典理事長とその仲間、そして、地域のお年よりも含めた大人たちだ。
前嶋さんは、3年前まで奈良県庁の職員だった。大和の伝統野菜の認定事業、二輪菊(葛城市)、御所柿(御所市)など農業振興に携わり、地元の人たちと地域創生に尽力していた。そんな中、自分の生まれ育った福住では、過疎化・少子化が進み、幼稚園は閉園、小・中学校の存続も危ぶまれるように。
「自分のふるさとの先が見えない。今のうちになんとかしたい」と、早期退職を決意。同地区は冷涼期の植物もまだ見られる大和高原の植生が残り、小さな動植物が健在なところ。その里山や森林環境を守る活動を通じて“子育てしたいふるさとづくり”を目指している。荒れていた幼稚園を地域の人たちと一緒に清掃、「幼稚園カフェ」を開いて、子どもからお年寄りまでのコミュニティ広場とした。
そのとき協力してくれたお母さん方の協力も得て、2016年2月「NPO法人日本無形文化継承機構」を立ち上げ、複式学級となり存続のため小規模認定校に取り組む福住小学校(鳥山 晃子校長/児童数41人)を地域で支援したいと土曜学習を開校。学校の授業時間内では難しい、里山の自然、地域の伝統・文化・風習などの習得を、地域の人たちとの交流し、楽しみながら学ぶ環境づくりに力を入れる。
校長先生をはじめとする教師陣、地域のお年寄りたちの親身な協力と、子どもたちに年の近い天理大学や奈良県立大学の学生ボランティアなどを得て3年目。スクールの数日前には、大学生とお年寄りで作業する「協働サロン」で準備。「サロンがあった日は、帰宅後のお年寄りの機嫌が良く、イキイキとして会話も弾むそうです」と、自分の孫でない子のために世話を買って出るお年寄りたちの温かい心を喜ぶ前嶋さん。
「子どもたちが将来、“ここで子育てをしたい、自分たちも次世代へこのような経験をさせたい、伝えていきたい”と思ってくれるように育ってほしい」とも。
天理市内からのバス通学が始まり、バス停から1.2kmの登校の付き添いをしてくれる「こすもす分団・見守り隊」の誕生をはじめ、地元の子どもたちの入園・入学時には、福住で育てたお米と小豆で赤飯を蒸して配ったり、おばあちゃんたちにより分けてもらった雑草のリースを引っ提げて大阪でのロハスフェスタへ参加したりと、スクール以外にもつながりや活動の場は広がる。
郵便局まで4km、銀行までは15 kmというのにバスも走らない地域。お世話になっているおじいちゃん、おばあちゃんへの支援として、年金受け取り送迎サービスも検討中という。
「行事を終えるたび、仲間が“あぁ、疲れた。楽しかったぁ”と言うんですよ」と目を細め、子どもたちの成長を心躍らせる前嶋さんだ。