竹を自在に操って、龍や朱雀などダイナミックな作品を生み出す竹アーティスト、三橋玄さん。制作だけでなく、舞台や空間全体のプロデュース、照明、演出まで手がけることもある。今は竹林の整備や竹を生かしたまちづくりにも携わる。
東京生まれ。農学部を卒業後、世界放浪の旅に出て、写真の投影から表現の道に入った異色のプロフィール。
三橋さんが幼少の頃、東京で公害問題が騒がれ始め、両親が安心安全な田舎暮らしを求め、栃木ほか引っ越しを重ねた。自身も環境問題に興味を持ち鳥取大学農学部に入学。在学中、青年NGOを作るために奔走した。
結局、自然破壊を続けながら『地球を救おう』とする人類的な欺瞞に気づき、日本を離れ、カナダやヨーロッパに旅をした。行く先々で環境への取り組みや政治への関わりが日本よりはるかに優れていることを知り、ますます日本への反発が強まった。大学卒業後もアルバイトでお金を貯めてはチベット、インド、ネパール、中国など数年間放浪の旅をした。
東京に戻り、あるバーで自分が撮ったチベットの写真展を開催、暗い中で写真をよく見てもらうために壁にプロジェクターで投影しての説明がウケた。そこで使い始めたのが布だ。布をスクリーンに見立て、透けて重なるスクリーンや歪んだスクリーンなど、タブーに挑んだ表現が、また評判を呼んだ。そのうち、野外スペース丸ごとプロデュースも任されるようになった。そして、素材としての布にも限界があるなと思い始めた頃、たまたま竹に出合った。
竹を素材にしてみようと山に行くと、誰にも教えてもらわないのに竹の扱いを知っている自分に驚いた。竜巻を作ったら大絶賛で、そこから竹のオファーが増え、竹アートとコラボしたいと、作家や音楽家、書家などいろんな人とつながって、どんどん世界が広がった。
竹の魅力は、のこぎり1本で切り出せる、どこにでもある身近なものということだ。「それからは毎月のように誰かに、場所と時間とお金を提供されて、好きに作れと言ってもらえました。それは恵まれていたと思います」
周りからどうしたらアイデアが出てくるのかと言われる。「だいたい、竹で作るものや表現そのものに対してとらわれていることが多いのではないでしょうか。ただ作りたいものを素直に作ってみれば、アイデアは無限に湧くものだと思います」
屋外で制作中の予期しないことも取り入れる。雨が降ったり夕日がきれいだったり。だから自由な発想が生まれる。
「世界中の人が、竹が好きなんだと思います。竹を扱っているだけで、たくさんの人が声をかけてきてくれる。最初は竹にそんな力があるとは知りませんでした」
もっと大きな気づきは、竹が人を必要としているということだ。人の手を入れないと竹はただの藪になり弱っていく。
「人は自然を破壊する存在だと思ってきたのに、竹を通して人が自然を助けられることがあると実感できました」
桜井に来たのは5年前だ。桜井に住む友人を訪ねたとき、車が故障し、業者を紹介してもらおうと地域の集まりを訪ね、そのときの「このあたりで住むところも探しています」の一言で、彼らは家を探し始めてくれ、その日のうちに家が見つかってしまった。
今は妻や5人の子どもたちとここに根を下ろし、制作の傍ら、仲間たちと「竹の國」という組織を作り、明日香での竹林整備や、竹工芸のワークショップといった活動を行っている。
3年前から茶道に目を向けている。お道具を竹で制作、点前も習い、秋には竹林で茶会を行っている。日本人としてのDNAかなと今はしみじみ思っている。
「竹林に人が集まって楽しむ機会を作り、竹林という場そのものを価値づけ、竹の可能性をさらに広げていきたいです」
「『竹の國』は、明日香村での竹林整備、竹を利用した商品開発、アート作品制作、ワークショップ開催、茶道勉強会などを毎月開催しています。ご興味ある方はぜひ見に来てください」。