清流が流れる水源の地、川上村。この村の魅力を掘り起こし、新産業としてエコツアーを開催する若者がいる。川上村地域おこし協力隊であり、山遊び塾ヨイヨイかわかみの竹中雅幸さんだ。
京都市生まれ。文学少年だったが、大学で軽い気持ちで山岳部に入部。日本海から太平洋に至る46日間の日本アルプス縦断長期単独縦走やニュージーランド2か月間のトレッキング旅と、ひたすらに一歩一歩踏みしめ進んでいくことに、魅了されていった。また、在学中から登山ツアー専門旅行会社に勤務し、登山ガイド資格を取得。月に1〜2回は登山ガイド兼添乗員としてツアーに同行していた。転機となったのは、海外での現地ツアーガイドとの出会いだった。「自身が熟知し感動した場所に、案内する彼ら。会社企画の場所を案内するのではなく、自分もそうでありたい」
ちょうどその頃、川上村で地域おこし協力隊の募集を知り、村を訪れ移住を決意、無事隊員となった。「1年は村で遊べ」との村長の言葉もあり、村人に話を聞き、遊び場を案内してもらった。
山に川、滝、そして洞窟。川上村には、洞窟内に不動明王が祀られ観光地化されている不動窟の他、水晶窟(立ち入り禁止)、辨天窟など7つの洞窟があると聞く。村人に尋ねると、次から次へと洞窟情報が出てきた。「7つどころか、いったいいくつあるのだろう」。竹中さんは地域固有の資源を生かすエコツアーを念頭に洞窟群の現状調査を開始した。負傷した天誅組隊士小川佐吉と医師の乾十郎が潜伏していたと伝わる天誅窟や、修験者が利用していたと思われる洞窟など、歴史・個性のある場所が眠っていた。「地元の方にとっては昔から何気無く知っている場所でも、私たちにとっては感動の宝庫。多くの人に伝えていけたら」
協力隊1年目の秋。西表島でエコツアーをしていた移住者の猪腰直樹さんと出会い、2人で思いを具体化させていった。「何もないような場所でも、歴史があり、面白い植物もある。何度も同じ道を歩きツアーのストーリーを練りました」。冬に開催した『天然洞窟探検ツアー』では、石像と護摩跡が残る、大峰山の裏行場とみられる洞窟探検と、行者宿・朝日館での“おくどさん”体験を盛り込んだツアーにした。その他、『氷瀑ツアー』では林業地ならではの雪山での工夫“木蝋”で暖をとったり、ごはんを作ったり。「村の人との何気無い話から、ガイドブックや地図には載っていない楽しみ方が見つかる。自分が体験して感動したものだけ伝えたい」
当初は少なかった参加者も、今では定員を超えるまでになった。昨秋から生態学を学んでいた安田芳裕さんがメンバーに加わり、山の小さな苔の世界を観察する『苔ツアー』など、新たな広がりを見せている。「“ヨイヨイかわかみ”は始まったばかりです。紹介したい場所は山のようにあり、新産業として定着させるための課題も山のようにある。一歩一歩、着実に進めていきたいです」