東に大台ヶ原、西に世界遺産大峯奥駈道を有する大峯山脈。村の97%を占める山々に挟まれ、中央を南北に流れる北山川沿いに集落を成すのが上北山村だ。大自然と平氏・南朝ゆかりの歴史に育まれた村だが現在は、過疎化の拍車に悩む村でもある。
そんな村の中心地とも言える河合の役場すぐ南、国道169号線沿いに鮮やかな黄壁の民宿タッサンがある。経営するのは、2歳男児の子育て真っ最中の北岡悠揮さん・由妃さん夫婦だ。
タッサンは、この地で50年、由妃さんの祖母フサさんによって、山仕事や釣り・観光の客を迎えてきた。ところが近年、道路が整備されたのはいいが日帰り客が増加、宿泊客は減り、フサさんも高齢となり体調を崩してしまった。周りの民宿も高齢化で廃業するところが増えてきたなか、タッサンの存続も岐路に。
「私が子どもの頃からずっとあったおばあちゃんの民宿。潰すのはもったいない」と由妃さんが継ぐことに。結婚2年目、接骨院勤務の夫・悠揮さん、1歳の龍ノ助君と共に大阪で暮らしていた由妃さん。実は、大学のゼミでは地域活性化事業について学んでいた。
「自分たちが継いで、過疎に悩む村を元気にできないかと思いました」。独立開業を目指す悠揮さんも賛同、2015年4月にUターン。「うれしいて泣きました。毎年来てくれるお得意さんもあるで」とフサおばあちゃん(75歳)。タッサンは、フサさんが辰年だから付けた名称だが、孫も辰年。世代交代で若返ったタッサンは、おばあちゃんが築いたアットホームさと信用に、村おこしの原動力となる付加価値を付けていこうと計画中だ。
たとえば、畑を借りて野菜等を育て、宿で出す料理に使い、客に収穫もしてもらう。村で捕獲された猪や鹿の鍋や焼肉など宿の名物メニューを、バーベキューサイトで自炊してもらう。そして星空観察や蛍狩りなど体験型民宿もできたらと。ほか、オリジナル観光マップも思案中。
由妃さんが中学の頃まで1千人はいた人口は半減、小中学校が統合され、小学校は廃校に。村で3人の小学生が今春からは1人、保育園児は龍ノ助くんを入れて5人。厳しい状況だ。が、「自然の中でのびのびと育てられる。町では周りの人との間に距離感があったが、ここでは周りの人が家族のように接してくれるので、安心。子どももコミュニケーション能力が高まると思う」
「不便さや不安よりいいこと(自然)のほうが多い。家のすぐ前で川遊びもできる。冬は和佐又山でソリやスキーも」と悠揮さんが言えば、「そう。買い物も大抵のものは翌日配送のネットショッピングで間に合うし、お店がないから外食や出来合いを利用せず、何でも手作り」と。
役場職員も混じる飲み友達の間でも「どうやったら村を元気にできるか」と話し合う回数が増えた。まだ具体化には至らないが、少ない人口の中で本気で前に踏み出そうとする仲間がいることに、勇気をもらう。
昼間は山や川に遊び、日が落ちれば清流の水音をBGMに満天の星を数える…、上北山のダイナミックな自然の魅力は滞在してこそ、満喫できる。