河内音頭の太鼓のリズム。緑の畝が広がる茶畑。子どもたちが走り回り、籠を背負った老若男女が茶摘みに精を出す。“やまとたかはらお茶どころ♪”今年5月、奈良市丹生町から『やまと茶摘み唄』が動画で世界に発信された。これは大和茶・大和高原をPRするために「奈良市の隠れ里Nyu farm実行委員会」が企画したものだ。
同会は、代表の鼎文代さん、農家民宿『十六夜山荘』を営む福岡美代子さん、奈良市東部地域おこし協力隊の黒田篤史さんの3人を中心に、地域の人々が協力している。
鼎さんは16年前、美しい丘陵の風景と、野菜のおいしさに惹かれ、大阪から移住してきたIターン者。2年前からイタリアンレストラン『アトリエ ラ・ズッカ』を夫婦で営んでいる。この店に訪れる客の多くが大阪など都会の人たち。そこで、タイミングが合えば近隣の茶畑や椎茸栽培の山林に案内したり、野菜の収穫を薦めたりしていた。
「皆さん感動されます。その姿を見て、村の日々の営みの中に多くの魅力が眠っていると思いました」
イタリアを旅し、田舎のアグリトゥリズモ(農家民宿)に泊まり、ブドウ畑やオリーブ畑を見た景色が、この大和高原の茶畑が織りなす景色と重なり、大和茶の大切さに気付いた。
大阪ではイベント企画会社でイベントの企画運営をしていた鼎さん。その経歴を活かして大和茶応援歌を作り、ソーシャルメディアで発信することを思いついた。世界中に大和高原・大和茶の魅力を発信すれば、都会と農村の交流に加え外国人観光客の誘致(インバウンド)の促進にも繋がり、大和茶の新しい販路の拡大になるのではないか、というものだ。
賛同したのは同会のメンバーの他、鼎さんの知人で、丹生町の風景に魅了された人たち。河内音頭の永田充康さんは茶畑を訪れて茶摘みの唄を作曲。同町出身で福岡さんの叔父にあたる俳人の中久保白露さんが作詞を手がけ、『やまと茶摘み唄』が完成した。これを世界に発信するため、コンサート&茶摘みイベントを開催し、その様子を、動画作家の松本敦さんが撮影・編集した作品『奈良の大和茶、世界へ茶摘み体験ダイジェスト』が出来上がった。
今年5月からUPしたところ、なんと5か月で再生回数1万回を超えた。それに付随するイベントとして、秋には大きな釜でお茶を焙じる、昔ながらのほうじ茶作りを再現し、参加者全員で茶がゆを食した。その他、お茶の里で体験する四季折々の「お茶事」の開催、原木椎茸の植菌、炭作りや間伐材での薪割り、ソバの栽培など、地域の人々と連携しながら参加者と交流してもらい、里山を知り、好きになってもらえるよう進めている。
「この丹生のほかにも、大和茶を作っている月ヶ瀬や山添、田原などで、大和茶を盛り上げる活動をしている人々がいます。今後はその人たちと繋がり、大和高原が一体となり大和茶ブランドを定着させる応援団になれれば」と鼎さんは目を輝かせた。