かつて、人々の手紙や電話が行き交っていた宇陀市榛原の旧伊那佐郵便局。2013年春、「伊那佐郵人」として新たに人々が行き交い集うカフェレストランとなった。局長として切り盛りするのが、松田麻由子さん。のびのびと田舎で子育てがしたく、夫が通勤できる距離を考慮した上で、大和郡山市から宇陀市に家族で移ってきた。
これまで、週末はショッピングセンターで過ごしていたが、宇陀に来てからは庭で遊んだり薪割りをしたりと、家族そろって家で過ごすことが当たり前に。夏に開いたバーベキューでは、訪れた友人らが皆、自然の良さを感じてくれたこともうれしかった。
移住してから、宇陀市榛原で偶然「青みがかったかわいい建物があるな」と旧伊那佐郵便局を発見。ここは旧街道としてかつて栄えていた場所で、住民のコミュニティーの場だった。しかし、築80年となるこの建物が取り壊されることを知る。松田さんは、SNSで呼びかけると、「やるなら手伝うよ」と友人や地域の人らが手を差し伸べてくれた。
地元の人が集える場所として、当時の扉や窓など使えるものはそのまま残し、ほぼ当時の状態に復元工事を行った。80年前から人々の思いをつないできたこの建物は、2014年、晴れて登録有形文化財の認定を受けた。
伊那佐郵人は、「たくさんの人が関わる店にしたい」と、日替わりシェフレストラン制。マレーシア料理やおばんざい料理など、多種多様な店が一日限定や曜日ごとにもてなし、店の数はこれまでで20店ほどになる。中には伊那佐郵人での営業をきっかけに自分の店を持った人もいて、チャレンジの場としても利用されている。「今はランチのみの営業ですが、ゆくゆくはおやつも食べられるなど、地元の人がもっと集える場所にしていきたいですね」
元々、テレワークや在宅ネット関係の仕事をしていた松田さん。ここではカフェだけでなく新しい仕事の輪が広がってきた。実は、ダリアの生産が日本一の榛原。松山地区のイベントでダリアの道を見たのをきっかけに、松田さんもやってみたいと思い、現在は球根植えから出荷作業までを手伝っている。「地域の花であるダリア。常に店内に飾っていきたいです」
その他、田舎での職業体験のインターン生を受け入れたり、移住者の支援をしたりと、これまでの経験を生かした新しい仕事にも挑戦している。
「食べ物がおいしくて、温泉も多い、自然いっぱいの宇陀。ここで子育てすること、ここの良さを生かした仕事を生み出すことに、やりがいを感じています」とこの地での生活に夢を膨らませる。