赤や黄色に染まったみずみずしいミニトマト、ぎっしり並んだ粒が今にもはじけそうなトウモロコシ、白に緑、縞々と個性豊かなナス……。無農薬・無化成肥料で丁寧に育てられた野菜たちが週に一度、「明日香ビオマルシェ」に勢ぞろいする。
「たるたる自然農園」を営む樽井一樹さんが代表を務めるこのマルシェは、有機農業を実践する新規就農者9人が中心となり、2年前に始動した。樽井さんの野菜を仕入れていた村内のシェフ・高橋慎也さんに「この野菜はどこで買えるのかとお客さんに聞かれることが多いので、村の生産者でマルシェをしたらどうか」と持ちかけられたのがきっかけだ。
現在は農家、養鶏、天然酵母パン、自家焙煎珈琲などのオーガニック農産物や加工品の生産者が出店。あすか夢の楽市の駐車場にテントを張り、生産者と消費者がつながる場所として作り手の顔が見える対面販売をしている。
月1・週末開催が多い中で、「明日香ビオマルシェ」は毎週金曜の朝に開催。1週間分の食材をここで買ってもらうのが狙いだ。手間や負担が多くても最初から週1回と決めていたそうで、「意識したのは生活になじむ朝市。一過性のイベントではなく、毎日使える野菜を売ることで、もっと日常的にオーガニック野菜に親しんでほしかったんです」と樽井さん。
マルシェを始めて驚いたのは、オーガニック志向の人が「待っていました」と言わんばかりにたくさんいたということ。樽井さん自身、就農するまでは大阪のベンチャー企業で6年勤め、オーガニックとは無縁の世界にいた。在宅医療や病院の立ち上げに携わり、生と死に向き合う毎日を送っていた20代。そんな中、父親が急死。自分の生き方を考えさせられ、またドキュメンタリー映画『地球交響曲』(ガイアシンフォニー)にも感銘を受けたことで、「命の鼓動を身近に感じる生き方がしたい」と、30歳で農業の道を選んだ。
マルシェで並ぶのは、前日やその日の朝に採れた新鮮野菜で、「味が濃くておいしく、日持ちがする」「ここで買うと、子どもが喜んで野菜を食べるようになった」と、地元野菜を生かした料理を提供するシェフや、小さな子を持つ親から絶大な評価と信頼を得ている。
最近では、訪れた者同士で面白い野菜や調理法などの情報交換をしたり、マルシェで知り合った主婦らが「ビオマルコ」と名乗り、買い物後に甘樫丘で子どもに絵本を読み聞かせる「森のようちえん」を行ったりと、マルシェが社交場としてのにぎわいを見せている。
より快適に集ってもらえるよう、夏はグリーンカーテンの植え込みや「冷やしトマト」の販売、冬は石焼き芋ストーブなど、居心地のいい空間作りのアイデアを出し合うメンバーたち。技術勉強会を開催し、情報や農機共有による生産性の向上、果物の充実、年間を通じた米の販売なども課題に掲げる。さらにマルシェの延長線上として「村で農業をやりたい人が出てくるなど、マルシェがこれからの農を担う入り口につながれば」と願う。
実は開始当初、少々の悪天候で中止にしていた週もあったとか。しかし、いざ雨の中決行してみると、そこにはいつもと変わらず買いに来てくれる客の姿。「もう、やるしかない! と。使命ですね。それだけマルシェやオーガニックが人々の生活に密着できていることがうれしく、ありがたいです」
今や、売り手・買い手の垣根を越えて、なくてはならない“太陽”のような存在へと成長した「明日香ビオマルシェ」。9月に3年目を迎える太陽が、これからどんな恵みをもたらしてくれるのか、目が離せない。