カラフルでポップな色使いのカップや皿。重ねて、並べて、見ているだけでも楽しくなる。これが漆によるデザインだというから驚きだ。
作り手は、塗師の阪本修さん。赤と黒のイメージが強い漆の印象をガラリと変えた、彩り豊かなデザインプロダクト「Urushi no Irodori」として2013年、奈良から発信した。
きっかけは、家庭や飲食店で出てくる器が陶器やガラス製ばかりで、漆器をあまり見かけなかったこと。「漆器を作っていてその素材の良さを知っているのに、周りに伝えられていないな、と気付いたんです」
代々、指物師として伝統工芸を営む家庭に生まれ育った阪本さん。木工の仕事につながる技術を、と漆を勉強するうちに、その面白さに惹かれたという。
奈良を離れ、輪島と東京で修業する中で、奈良が外から「伝統工芸のまち」と強く認識されていることに気付いたのもこの時。奈良で伝統工芸を続ける良さ、難しさを知っている上で、この周囲の認識との差をプラスに生かすためにも、「奈良からいいものを発信したい」との思いを強く抱いた。
漆の木は日本のほか、中国、朝鮮半島の東アジアにのみ自生。はるか昔、縄文時代から漆は塗料や接着剤として使われ、かつては英語で陶磁器をchina、漆器をjapanと呼んた時代もあったことから、日本人になじみ深いものだった。しかし、粗悪な漆器の流通や、プラスチックなどの安い製品の登場で、漆器は扱いづらい、高いというイメージが根付いてしまった。
すっかり人々の生活から離れた漆器を再び身近に感じてもらうにはどうしたらいいかと考えた末、雑貨店に置けるようなデザインを意識することに。並べた時に華やかで、目を引くカラフルな色に挑んだ。
また、手頃な価格で提供するために、工程や形も工夫。素地に生漆を塗り、木地に水分が吸い込むのを防止する「木地固め」、研の粉という細かい土を混ぜた生漆を塗って布で拭き取る「拭きサビ」、色漆で仕上げる「上塗り」の三工程に絞った。サイズは、カップも皿も一種類。制作時間を短縮できるよう、丸型のみで展開する。
こうしてできた漆塗りの器は、安心な天然素材。抗菌効果があり、水、熱、酸、アルカリに強いのが特長だ。素地が木なので軽くて保温性が高く、口当たりも優しい。「漆塗りは、塗り足せば十年どころか百年だって持つほど丈夫で、年月が経つにつれて色が明るくなってくるのも楽しみの一つ。他の器と同じく、もっと漆器を手に取る人が増えれば何よりです」
また、現在市場に出回っている漆は、そのほとんどが中国産。「漆の面白さが見直され、塗料としての需要が上がれば、日本の漆採取の仕事が増え、採取を仕事にする人を増やすことにつながるかもしれません」と願う。
奈良で独立した今、作品や茶道具などを制作しつつ、漆の新たな可能性を模索している阪本さん。「漆の持つ個性を生かしたモノづくりは、作家として駆け出しの今の自分だからこそできること。続けていくことが大事だなと感じています」と、若手としてできることに挑んでいる。「かつてはjapanと呼ばれた漆器。これからは『Urushi』という日本の誇る塗料として、素材の良さや面白さ、魅力を、海外にも広く伝えていきたいです」