丸太を組み合わせたブランコや鉄棒で、のびのびと遊ぶ子どもたち。これらの遊具は山深い上北山村に住む一人の父親の手で、一つひとつ手作りされている。
その父親とは、同村出身の大上良平さん。10年前からインターネットを通じて木製遊具キットを販売し、子や孫への贈り物として人気を集めている。大上さんが遊具を作り始めたきっかけも、息子への誕生日プレゼントだった。
遊具となる材木は、すべて環境にやさしい間伐材。御杖村や三重県松阪市産の、丸太に加工処理された杉を仕入れる。丸太は角材と違って転がるので加工が難しく、技術も手間もひとしお。しかし「子どもが安心して遊ぶには丸い方がいい。かわいいし、木のあたたかみもあるでしょ」と、丸太にこだわりを見せる。
さらに「子どもが直接触れるものだから」と安全には特に注意を払い、防腐剤は専門の加工場で塗装。安全性の高い薬剤を中まで浸透させることで、塗り直しの必要がなく、防腐効果は非常に高いそうだ。
実は、特別木に思い入れがあった訳ではない大上さん。高校卒業後、上北山村森林組合(現在の吉野きたやま森林組合)に就職したのも、「村で働くには役場か山仕事の2択。それなら机より自然に向かう方が」との理由から。組合では主に素材生産を担当し、日々の業務で丸太の仕入れや集材時のワイヤーの結び方などのノウハウを習得。息子にブランコを作ろうと思い立った時には、材料の丸太は工場に転がっており、ロープの結び方も身についていた。「特別な膳立てはしていませんが、いつでも遊具が作れる環境だと気づきました」
父親が作ってくれた世界でたった一つのブランコに、子どもらは大喜び。近所の母親たちにも好評で、その後始めたインターネット販売も口コミで年々注文が増えていった。2009年には組合を退職。「自然工房ウッドウォームズ」を掲げる遊具職人となった。「ブランコ屋の方が、夢があるでしょ」と大上さんは笑う。そう話すのは、危険と隣り合わせの山仕事が家族に心配をかけていたゆえ。「でも、山仕事の経験があったからこそ今がある。巡り合わせですね」
工房では、注文が増えた現在も家族だけで作業をこなす。そのため、複数のドリルを同時に使えるよう作業台に工夫を凝らすなど、いかに効率を上げるか日夜考えている。一方で、木の材質や遊具のパーツごとにノコギリの刃を取り換えるなど、より良いものを作るために細部へのこだわりも欠かさない。
最近では、古くなった部品の注文にも対応し始めたものの、7年前の買い手から「ブランコのロープを交換したい」と注文があった程度。故障の連絡やクレームは今までに1件もない。「長持ちしすぎで商売にはならへんけど、ありがたいこと。これからも大事に使ってくれたら」
大上さんの遊具には、丸太ならではのあたたかみや素朴さ、そして何より家族への愛情が詰まっている。「子どもが成長して使われなくなるその日まで、末永くサポートします。ブランコ屋として、子を持つ親として」