春は桜、初夏はアジサイ、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々の表情が人々を魅了する世界遺産・吉野山。上千本にある築約150年の吉野建て古民家で「オーガニック・カフェはなさか」を営むのが、徳原龍昇さんと愛子さん夫妻だ。
二人が食に目覚めたきっかけは、愛子さんの妊娠。子どものために食を見直そうと勉強し始めたところ、気付けば夫の龍昇さんの方が食の奥深さにひ惹き込まれてしまったとか。
夫婦で健康志向の食生活にガラリと改善。体にいい天然水を求めて大阪から吉野まで水をく汲みに出かけるうちに、自然の中での暮らしに憧れ、1999年、十津川村へ移住した。
十津川村では、大工でもある龍昇さんが古民家を改修し、囲炉裏で料理をするガス無し生活。「最初はガスも使っていたんです。でも、重たいボンベを運んで来てくれるガス会社のお兄ちゃんに申し訳なく思っちゃって。無いなら無いで、家族で囲炉裏を囲み、ゆっくり調理する時間も楽しむことができました」
大阪ではなかった近所付き合いも経験。隣のおばあちゃんが畑で採れたものを分けてくれたり、田舎生活になじめているか気にかけたりしてくれることに、ありがたみを感じた。
さらに、初めて挑戦した農業では作ったトマトやキュウリの味の濃さ、香りの強さに驚いた。スーパーで手に入る野菜と味が違う。野菜の本当のおいしさに気付かされた。
「ピュアなものを求めて、憧れてやって来ました。町の便利さを取り込まなくても価値があるのが田舎。でも、市場の都合で作られてしまっている野菜が多くて、そこが悲しいなぁ」と龍昇さん。おいしい空気と水がおいしい野菜を育てる。自然の恵みこそ田舎の価値であり、それを田舎から送り出したいと感じた。
3年後、子ども2人の学校進学を考え、また友人の縁もあって吉野山の古民家に移住。これを機に、今まで学んだ自然食の知識を生かしてオーガニック・カフェを開くことを決めた。
店舗兼住居に改修を重ねた手作りの店で提供するカフェメニューは、安心・安全の無農薬野菜や酵素玄米を使ったランチ、天然酵母のパンなどすべて100%オーガニックだ。
ランチは酵素を多く含んだ生野菜が中心で、メインは日替わり。愛子さんイチオシの酵素玄米は炊き方にもこだわり、毎日寝かせて酵素を増やしている。季節限定の野草や野イチゴなど、山の恵みもふんだんに使い、天然酵母パンはあっという間に売り切れるほどの人気ぶりだ。
メインとなる野菜はすべて、飛鳥で毎週金曜日に開催される『明日香ビオマルシェ』で調達したもの。ここでは、流通の少ない野菜や育てるのが難しい野菜もすべて無農薬で栽培、ブースで対面販売されている。「消費者のためを思って大切に作られた野菜は、まだ糸のように細い流通。一人でも多くの人が欲しがり、ロープくらいになればなぁ」
“子どもに食べさせたい安心安全な食を”。最近では、二人の思いを知った妊婦や母親から希望があり、酵素料理教室を開催したことも。「ここは観光地だから、いろんな人に店をのぞいて自然食を食べてもらいたい。その中で、家庭の食卓を守る母親にこそ、食の大切さに気付いてほしいです。いろいろな考え方があるけど、シンプルに“体に必要なものを選ぼうよ”ということを伝えていけたら」