奈良県南部地域の過疎化・高齢化は深刻だ。中でも川上村は65歳以上の村民が半数を超える奈良県一の高齢化率。その川上村が変わろうとしている。地域おこし協力隊員(通称=かわかもん)として移住者を募集し、今春、東京や大阪などから6人の若者が移住した。鳥居由佳さんもその1人だ。
「海が好き、だからここで林業がしたい」。東大阪で生まれ育ち学校事務をしていた鳥居さん。学生時代の一人旅をきっかけに八重山の海に10年余り通い続けるほどの海好き。「海から見える広い空、眩しい太陽、水平線を見ればその向こうに何があるのだろうとワクワクする」。そして海の中で山をおも想った。「この豊かな海があるのは山のおかげ。山がありそこに雨が降る、養分を蓄えたその水は川に流れて海へゆく。豊かな海を作るため山林を守る林業に関わりたい」。鳥居さんは心に決めた。
山のことを学ぶため2年前から森林ボランティア活動に参加し、兵庫や京都で環境整備などを経験。同時に、林業者や建築家、デザイナーなど林業に関わる人々が集まる場にも積極的に参加し林業ネットワークを広げていった。
川上村との出合いも活動を通じて知り合った友人からの誘いだった。60年以上吉野林業を支えてきた同村の辻谷達雄さん(80歳)を塾長に、孫世代の若者約20人が集い、山の知恵、山村の文化を学び次の世代に伝えていこうと『源流塾』を立ち上げた。そんな頃、川上村の地域おこし協力隊員の募集を見て、迷わず応募。採用となり前職を辞して、今年6月に村民となった。移って実感したのは林業衰退の深刻な問題だった。「ここは海の源、水の1滴目ができる水源地の村、川上村を人生を賭けて守りたいと思いました」
村では『源流塾生』として師匠辻谷さんに学び、『かわかもん』として地域振興活動にいそしむ。林業といっても山仕事だけではない。丸太を切り出せば売れた時代とは違い、知恵を出し合い売れる製品にしていかなければならない。「今の時代に合わせ、林業の活性化を村の人に寄り添いながら考えることがよそから来た、そして若い私の役割かなっと思っています」。ブログやソーシャルネットワークでの情報発信活動をはじめ、今からできることが山のようにある。「楽しいんです! エネルギーが水のように湧き出てきます」。新しい価値観や情報を村に伝え、村に生きる技と知恵が合わさる。「甘いかもしれないですが、未来への小さな光が見える ”予感 “がしませんか」
『かわかもん』の活動は始まったばかり。村から都市へ、世界へ。彼らの力強いまなざしをこれからも追いかけていきたい。