吉野杉、桜、高野槇など、木目や色が美しい木製ボールペン。木の香りが鼻腔に心地よい。桜井の森本英雄さんが一本一本手作りで制作しており、温かみのあるオンリーワンの商品として人気を呼んでいるものだ。談山神社に近い山里の奥にある工房に行くと、「ご利益があるから」と先に工房前の天一神社に案内された。ご神体が老木という珍しい神社で、まさに木を扱う森本さんの氏神様だ。
この地元・鹿路で、森本さんは林業を受け継ぎ、山の仕事を行ってきた。木の切り出し、育林などのほか、床柱になる磨き丸太の製造が得意だった。同じようで一つとして同じでない自然相手の林業が面白くて好きだという。「それもこれも先祖が連綿と育林を続けてきたから。今切り出すのは数十年前に植えた木やからね」
ボールペン作りへのきっかけは10年ほど前に大病を患ったこと。奇跡的に命をつないだ森本さんは長男に仕事を託し、「これからは自分の好きなことをする」と宣言。木のよさを生かす何かを作りたいと考え続け、兼ねて気になっていた捨て材に至った。たとえば杉にコブがあれば商品にならず、数十年育てた木なのに伐採だけして山に捨ておくしかない。これを生かせないかと行き当たったのがボールペン作りだ。
さっそく旋盤機を購入し、高等技術専門学校にも通って技術を習得、木のボールペン作りを始めた。材料は奈良産にこだわり、デザインは客のオーダーや使用の感想を参考に徐々に変えていった。
「一番のおすすめは吉野杉。年輪が緻密になるよう育てているから珍重されている木です。風合いも香りもいいし、使うほどに手になじみ味が出てくるんです」
木材はすべて捨てる端材だ。反りを防ぐために約半年乾燥させて再活用する。木の種類によって扱いが違うところは林業経験が役に立つ。一日に作れる本数は10本程度で、販売はスローだが、使った人から「使っていると気持ちがいい」「心が落ち着く」などの感想が寄せられリピーターが増えつつある。何よりこぶや虫食いなどの欠点を個性として商品化できる。「自分たちが捨ててきた部分という自責の念もあるからね」
最近多いのが、家の改築時に出た古木を持ちこんでの依頼。「古材を捨てずに思い出に使っていただくのは本当にうれしい」と森本さんも力を入れる。
森本さんのもう一つの思いは、鹿路地区に人を呼びこむことだ。現在14世帯の高齢化地区だが、「来てもらったら絶対に元気になって帰ってもらえる場所」との自負がある。天一神社への案内もその一つ。自ら「多武峰散策マップ」を作成し商品購入者に配布、昨年からは小中学生の間伐体験や、クレソン摘み、自然木ボールペン作りなどを組み入れた自然ツアーも始めた。「この場所を知り、木のこと、山のことを知り、気にかけてくれる人が増えたらいいなと思っています」