地域の財産は満天の星―。地域活性化の願いが託された天文台。五條市大塔町(旧 大塔村)の『大塔コスミックパーク 星のくに』は、五條市市街地から車で約30分南下した山の上、空気の澄んだ自然豊かな場所に位置する。県唯一、天文台と宿泊施設を備え、世界中がハレー彗星回帰に沸いた昭和61年にオープン。以来28年間、同施設を支えてきた一人が五條市役所大塔支所の職員、辻本尚克さんだ。
出身は隣接する和歌山県高野町。山に囲まれ、澄みきった夜空に輝く星を眺めて育った。小遣いをためて望遠鏡を購入し、月や惑星を見ては感動する日々を過ごした。大人になり地元の同好会に入ると、さらに星の不思議さに魅了された。やがて、隣村に天文台建設の話が持ち上がり、仲間と建設途中の地を訪れてはあれこれと想像を膨らませたという。天文台の完成後、好きが高じて観測会の手伝いをするように。これがきっかけで平成元年職員に採用され、翌年完成したプラネタリウム館も含めた仕事に従事してきた。
趣味として楽しんできた星も、仕事として関わってから、ギリシャ神話と星座、日本の風習、暦、歴史など様々な分野をより深く調べるようになった。例えば、日食。歴史上謎の多い卑弥呼に関し、当時も日食が起きた史実から、太陽に関わる卑弥呼が人々の恐れから殺されたのではないかとイメージを膨らませることも。
天体観測会やプラネタリウムの案内に、辻本さん自身が星に抱く不思議さをオリジナルのストーリーに盛り込んでいく。単に「きれいやなー」と感動してもらうのもうれしいが、星を見ながら、昔から人の営みと深く関わってきた星に、何かを感じてほしいと願ってやまない。
辻本さんは、”実際に見ること“にこだわる。テレビやビデオの映像、さらに、スライドに映して星を見ることもできるが、「天候に左右されてもその瞬間にしか見られない感動がある」と強調。夜空を見上げて望遠鏡をのぞくと、映像で見るよりも星が美しく見えて驚く人の姿に、「夜空に繰り広げられる天体ショーにかなうものはないはず」ときっぱり。
天体観測は宿泊者対象を基本としているが、毎年恒例のイベントなども実施。平成13年のしし座流星群の観測会には、1000人近い人が集まり、1時間に5000個もの流れ星がシャワーのように降り注ぐ様子に、皆が歓声を上げた。
今、いちおしは、7月末までなんとか観測できる、夜空の人気者「土星」。もっとも土星らしい環の姿が楽しめるチャンスで、今後、環が大きく傾いていくのだという。また、8月12日夜から13日未明にかけて極大になる「ペルセウス座流星群」の観測も、期待できるそうだ。「家族で夜空を見上げる時間を持ってほしい。さらに、都会の環境と違うこの地ならではの感動も体験してほしい。夏休みには恒例の望遠鏡工作教室も開きますのでぜひ」と笑顔で呼びかけた。