法隆寺の南西、紅葉の竜田川、桜の三室山に近く、南に葛城山系を望む地に、「想作屋」岡本貴稔さんの工房がある。貸し倉庫の一角で、日がな一日デザインや構想を練り、制作に勤しむ。
デザイン専門学校を中退し、テキスタイル業界、建築設計事務所へと転身したが、机で図面を引くだけでなく、実際にものづくりにかかわりたいという思いが強かった貴稔さん。奈良高等技術専門校で家具工芸技術を学び、木工作家として独立した。
毎日木に触れ木を加工しながら、木にぬくもりややさしさを感じ、そして時には厳しさを教わる。「生きているものを使わせてもらっているのだから無駄にしたくない」と、テーブルや椅子を作った残りの木切れはスプーンやフォーク、さらにブローチやボタン、イヤリングなどの小物にも。
木を大切に思う気持ちは削りくず屑にも及び、取り置いた木屑で染色を試みた。繊維の種類や媒染剤によって同じ木でも様々な発色を見せる。藍をかけて斬新な色合いにも挑戦。椅子のカバーをはじめ、クッション、スカーフなど、大好きな木の命を全うすることにまた一歩近づけた。
「今は染めに使った木屑を畑の敷きワラ代わりに使ってくれる友人がいますが、いずれは灰にして焼き物のゆうやく釉薬として使おうと思っています」。妻で焼き物作家の「いっとこや」紘呂佳さんが強力なパートナーだ。
「実は壮大な夢があるんです」と目を輝かせる。「木工と木屑染め、その灰釉で焼き物が体験できる工房を作って、体験した人なりの新たな生活観・人生観を発見してほしいんです。プラス農園とかも…」と夢が広がる。「木を縁に、多くの人とのつながりができました」。やりたいことに近づけるように人に恵まれてきたと木と人に感謝し、「作品は人と会するメッセンジャー役だから作るのが楽しい」と手渡す相手の笑顔を思い描きながら創作に励む。
大阪生まれだが、父親の仕事の関係で和歌山の古座川で幼少期を過ごす。谷水を飲み、川で泳ぐという大自然の中での暮らし。小学1年生のとき奈良市へ来るが、そこも田畑や緑に囲まれた地だった。「自然から得たものが大きいのでしょうね。昔はリサイクルなんて言葉はなかったけれど、必要なだけの狩猟や漁をし、農作物も食べ残さない、捨てない生活をしていた」
作品の中で好評を博しているのがオリジナル針箱だ。「昔はお母さんが子どもの着る物などを手づくりしていた。雑巾も売ってる時代になって、さびしい。手づくりの物でお母さんの愛を伝えてほしくて」
作っているのは物だが、”想いを作る“から「想作屋」なのだと言う。「木の命が形を変えて人々の生活の中で生き続けていく。何かを感じ、想いを紡いでもらえるようなモノ作りをしていきたい」と、いつも無言で自分に語りかけてくれる木に想いを寄せる。