大和高原に位置し、戦国時代の文人武将山田道安ゆかりの地である天理市山田町。ここで新しい奈良のブランド食材が生まれようとしている。食用ホオズキ『道安宝珠喜』だ。今年4月、生産者の出垣滋さんを中心としたプロジェクトチームが始動し注目を集めている。
道安宝珠喜はセンナリホオズキという品種で、プチトマトのようなはじける食感と、爽やかな甘さが特徴だ。この山田町にいつからか木苺のように野生化し、昔から食べられていたそうだ。
20年前に縁あって天理市内から山田町に移り住んだ出垣さん。本職は料理人。村に来てから仕事の傍ら、家の近くの畑で野菜を育てていた。ある日、近所の人に「これ食べてみ」と渡され食べたのがホオズキとの出合い。「甘い、おいしい、おもしろい食材やな」と興味を持ち16年前から栽培を始めた。センナリ(千成)の名の通り、小さな実がたくさんできる。実を大きくするには、もっと甘くするにはと本を読み、いいと思う事を取り入れ、毎年少しずつ試行錯誤を重ねていった。殺虫材はヤシ油から作る天然由来のものを少量。後はテントウムシ、クモやカマキリに害虫を食べてもらい自然に任せる。
そんな出垣さんに強力なパートナーが見付かった。一人目は奈良県農林部職員の前嶋文典さんだ。前嶋さんは5年前に道安宝珠喜と出合い、約30年の農政経験から付加価値の高さ、可能性を感じた。2人は奈良の新ブランド立ち上げに向けて動き出した。出垣さんは品質の安定に力を注ぎ、出荷期間を広げ、甘みを引き出す保存方法を導入。前嶋さんは東京・大阪の市場へ販路を拡大させ、現在は各地の料亭などで使用されているという。
また、フードコーディネーターの松田弘子さんやコンフィチュール(ジャム)作家の東史さんに協力を依頼。料理店へのレシピ提案やホオズキコンフィチュールの開発などを進め、今年4月には県の新商品の開発を支援する農商工連帯事業に採択され、ブランド化に向け4人でプロジェクトを始動させた。
4人は今夏、奈良市内のレストランで道安宝珠喜求評会を開催。料理研究家やシェフを中心に約40人が来場し、生のホオズキやコンフィチュール、ホオズキを使った料理を試食し意見を交わした。「果物のような、野菜のようなおいしさが魅力。ソースやデザート、添え物と可能性は広い」と参加者は興味を示していた。
「ホオズキで人が繋がり、ホオズキとともに広がっていく。ホオズキの産地として生産が町全体に広がり、奈良の、天理の、山田町の道安宝珠喜として全国に広がればいいな」と出垣さんは力を込めた。