日本有数の林業地として知られる吉野山。先祖代々守られてきた山も、木材の価格低下に伴い手入れされず荒廃が進んでいる。山の潜在的な力を信じ、未来のために、山作りの大切さを呼び掛ける人がいる。吉野森林管理サービスの今西秀光さんだ。
林業家に生まれた今西さん。幼少の頃は山で遊び、中学生になると当時流行していたトランジスタラジオを自作し、音楽を楽しむラジオ少年だった。この頃から電気機器の魅力にのめり込み、高専では電気工学を学ぶ。卒業後は神戸市の造船所に就職、電気技師として図面片手に走り回っていた。「仕事は楽しかったけれど、生まれ育った吉野の山がいつも心の中にありました」。27歳の頃、林業を続けていた祖父の死や自身の結婚を機に「山を守りたい、吉野へ帰ろう」と林業家になる決意をした。
山の仕事は主に立木の買い取りと伐採、搬出。これが想像以上に厳しい作業だった。当たり前だが自然の中での仕事は、夏は暑く、冬は痛いくらい寒い。そして常に危険と隣り合わせ。特に伐採と搬出はベテランでも命がけの仕事だ。また、この頃をピークに木材価格が低下。今では当時の5分の1ほどまで下がっている。「こうなると切って売るだけでは食べていけません。管理されない山が増え、価値がさらに低下すると先祖の努力が水の泡。なんとかしないと」
そんな時、『手入れをしたいが自分の山がどこにあるのか分らない』『所有地の境界線が分らない』という相談をたびたび受けるようになった。山の境界線の多くは曖昧で、隣接者との暗黙の了解で設定されているケースも多く、相続などでいざ山に入っても分らないという事態が起きていた。「これも、山が管理されなくなった大きな要因では」
林業家としては異例の経歴を持つ今西さん。元来、電気機器好きということもありGPS受信機に着目。ここから今西さんの研究は始まった。山の仕事をしながら20年間。費やした時間は約1万時間。様々なソフトを組み合わせ、データを変換し『山林管理用GPSシステム』を考案した。できるだけ安価で、誰もが使いやすくと作られたシステムは実際に、県内に約60ヘクタールの山林を所有する72歳の人も使用し、自身の山を測量したそうだ。その他、森林評価士や測量士補などの山に関わる資格を取得し、森林コンサルタントとして県内外で活動している。
「山仕事は100年以上という息の長い仕事です。だからこそやりがいもひとしお。特に枝打ちは100年後でもはっきりと木の中に結果が残ります。将来どんな素晴らしい山や木に育つかは今が大切。子どもや孫たちのためにも、資産として、環境として守ってほしい」と今西さんは祈りを込め今日も山に入る。