夕暮れとともに茜色に染まる金魚池。城下町の面影残る柳町商店街。大和郡山を舞台とし、地域の人が参加した映画「茜色の約束」がいよいよ上映される。
監督は、金魚の町・大和郡山市出身の塩崎祥平さん。「学校から帰ると、網とバケツを持ってこの辺りの溝で金魚を取っていました。入ったらあかんところに入って怒られたこともありました」と一帯に広がる金魚池を見渡す。
絵を描いたり、工作をしたり、子どもの頃からものづくりが好きだった塩崎さんの、映画との出会いは、高校生の頃に彼女と行った映画館だった。スクリーンから目を離し観客を眺めてみると、シーンによって表情がどんどん変わる。一つの作品で見る人に喜怒哀楽を感じさせることができる映画にひかれていった。
高校卒業後、映画製作を学ぶべくアメリカへ。「アメリカで暮らしていると、日本=大和郡山という感覚になりました。故郷の風景が目に浮かび、物語の素材があると確信しました」。6年の留学生活を終え帰国した塩崎さんは百米映画社に入社。制作・通訳・演出と映画製作に携わり、初監督短編作品『おとうさんのたばこ』は各国の映画祭で上映され高い評価を受けた。
そして、アメリカで感じた故郷の素材を思い出した。「いつも何気なく通る道も、町並みも、映画を通して見ると新たな一面に気付く。地元の方々とだから作れる面白さを」と3年前から本格的に大和郡山を舞台としたオリジナルストーリーの制作を開始。素材を求め町を歩くと、子どもの頃の懐かしい記憶がよみがえった。完成したストーリーは移民社会や金魚の伝統産業を描きながら、日系ブラジル人の少年の淡い恋心と、青色に輝く幻の金魚を巡ってのファンタジーコメディ。
「限られた予算と2週間という短い撮影スケジュール。意見がぶつかることも、思い通りに進まないこともあった。けれど、皆さんのおかげで、色とりどりのシーンがつながり、伝えたかった思いが表現できました」。金魚の小道具は公募で集まったアーティストの作品。参加したボランティアスタッフやエキストラは約300人。また、映画公開に向けて集結した『茜隊』は広報活動に力を尽くした。映画とともに大和郡山を盛り上げようと町を上げて取り組んだ。
こうして作られた映画は2月25日、全国に先駆け地元の映画館で公開される。「僕の映画ではなく、関わった方々の映画であり、地域の方々の映画です。奈良・大和郡山の魅力を地元の人に、全国の人に、世界の人に知ってもらえたら」と塩崎さんの目は力強く輝いていた。