子どもの頃に遊んだおもちゃ。いつも一緒に過ごしたお気に入りが壊れた時にはこの世が終わるくらい悲しかった。大人になっても忘れることのない思い出だ。そんな子どもたちのおもちゃを無料で直してくれる場所がある。その名も『おもちゃ病院』。全国に約360か所あり、奈良県内にも5か所の病院がある。約2年前から『なら・おおよどおもちゃ病院』と『なら おもちゃ病院』で活動しているおもちゃドクターの一人、大西隆さんを紹介しよう。
太平洋戦争が始まり、物が少ない幼少期を過ごした大西さん。少年時代は自分で作ったおもちゃで遊んだ。機械に興味を持ち、壊れた時計など分解して作り直すほど。「ぜんまいでレコードが一定の速さで回転する蓄音機の仕組みが実に不思議でした」。以来機械にどっぷり50年。機械技術者として企業に勤め68歳で退職した。長年培ってきた技術と経験を活かし何かできないかと考えていたとき、たまたま市の広報紙で ”おもちゃドクター“の存在を知った。
大淀町立児童センターで開かれる月に一度のおもちゃ病院では、毎回3〜6組ほどの親子が来院する。ぬいぐるみ・ラジコン・プラモデル・木工玩具など様々。「最近多いのはおしゃべりをするぬいぐるみ。幼い子は加減がわからないからどうしても壊してしまう。突然しゃべらなくなったり、動かなくなったりするものだから、それは悲しいでしょうね」
”治療“は子どもの目の前が基本。子どもや親に聞きながら原因を探り、ドクターたちが知恵を出し合い治療法を決める。心配そうに見守る子どもが、治療し終えて元通りになったおもちゃを手にすると、満面の笑みで「ありがとう」と。
また構造に興味を持つ子どももいて、大西さんの手元を食い入るように見つめ、「ここはどうなっているの?」と質問攻めに合うのも楽しいと言う。「僕もおもちゃから機械へと興味が広がり、技術者になりました。おもちゃを通して作る楽しさを知ったり、好奇心や優しい心を持ったりしてほしい。学ぶことはたくさんあります」
おもちゃ病院では治療だけでなく、おもちゃの寄付も呼び掛ける。修理して必要としている保育所や幼稚園などの施設に寄贈し、直らないおもちゃは分解して、内部構造等の勉強に活かし、部品は他のおもちゃの修理に活用。「壊れたからと新しいものを買い与えるのではなく、直せるものは直し、再利用できるものは再利用する。”もったいない“の精神ですね」
思いを広げるために、大西さんは所属している『NPO奈良元気もんプロジェクト』の活動にも、おもちゃ病院を提案。昨年11月と12月には、県庁前で行われた『奈良にぎわい味わい回廊』で仲間と一緒におもちゃ病院を開院した。その他、病院がない地域にも出張ドクターを行っている。
「電気好き、メカ好き、ものづくり好きなど、様々なドクターたちや来院の親子、人との繋がりが増えていくのがとても楽しい。僕らはおもちゃを治させていただいているのです」と大西さん。これからもおもちゃに命を吹き込んでほしい。