奈良と京都の県境に位置する奈良市西狭川町。静かな山間の村で流儀にとらわれず野の花を活け、楽しむ人がいる。『野の花と遊ぶ 花の会』を主宰する田中理節さんだ。
石川県金沢市生まれ。6歳で加賀古流に入門し華道をたしなんできた。「お花は好き、でも流儀花がなんとなく好きでなくって」。結婚し横浜に移り住んでからは、庭の花を摘み家中で自由に活け楽しむようになった。夫の仕事の関係で奈良へ。古いものが好きな田中夫妻は4年間かけてこの家を見つけた。窓から見えるものは緑だけ、日も昇れば月も昇る。この古民家で夫婦2人、4匹の猫と暮らしている
会の始まりは28年前。遊びに訪れた友人から「こんな花が活けたい! 教えてほしい」と頼まれた。好きなように自由に活けているだけ、教えられるものではないと一旦は断ったが、形にこだわらないそれぞれの自分流を見つけるためにと『花の会』を開いた。活動日は月に2回。朝10時に集合し、どんな花を活けようか、どこに何を摘みに行こうか、みんなの頭の中にある花の地図を頼りに話し合う。取材日はウメバチソウの群落が見頃ということで家の周辺に決まった。外を歩くとアキノキリンソウ・ツリガネニンジン・クサモミジ、秋の色が足元を染めている。その中を少女のように目を輝かせて歩く田中さん。同じ季節、場所であってもその年によって違う色を見せ、20年通って初めて目にする花もあるという。
『花は足で活けよ』と華道の教えがある。自分の足で野山を歩き、見つける目を養う。自然の在り方を知り、謙虚な気持ちが生まれる。「頭の中でイメージしながら。必要な分だけ摘ませてもらう」これが流儀を持たない『自分流』唯一の流儀。
摘むときはみな楽しげに、活けるときはみな無心。田中さんは台所へ行きお菓子を作ったり、植物の本をめくったり。「自然界に決まった形はないし、個性もみなそれぞれ。私はみんなが活けるお花のファンなのよ」と田中流にならないようにとアドバイスは少しだけ。
「本当はね、ここに来られない忙しい方にも知ってほしいの。わざわざどこかへ出掛ける必要はなく、道端に咲く小さな花に目を向けるだけでもいい。何かが変わるような気がする」。活けられた一つひとつの野の花が語りかけるように力強く輝いていた。