大和高原と呼ばれる宇陀市室生地区の標高約480mの山間部に、春は釣鐘状の白い花が咲き、夏には小さな青紫の実をたわわにつけるむろう大沢農場がある。ここに、生産者として、食の安全性や自然環境へのメッセージを伝える福田峰子さんがいる。
愛犬のジュヌちゃんが駆け回る農場には様々な生物の共存スペースができている。ハチが蜜を吸い、クモが巣を張る。鳥が自由に出入りし、イノシシもやってくる。「農薬を使わなくても、害虫はクモや鳥が食べてくれる。数本高い樹があるでしょ、あれは鳥が食べるためのブルーベリー」。持ちつ持たれつの関係だ。
幼少の頃から自然に親しみ育ち、オーストラリア留学で環境教育という分野を知り大学進学後は環境工学を学んだ。卒業後は理系教材の企画開発、編集、研究に携わり忙しい毎日を送っていた。
ある時、父・建治さんが、実家近くのこの土地で新規就農した。ブルーベリーを選んだ理由は、山を切り開いた土地であることと、原種が自生していたことから。6年後、突然に建治さんが病に倒れ逝去。百か日法要の日に訪れた農場には、白く可憐なブルーべリーの花が満開だった。「やらないと」と福田さんはこの時に後を継ぐ決意をした。
初めは本で調べながらの栽培。マニュアルの世界と現実は違い頭を抱えていた時、アメリカでオーガニックのブルーベリー栽培を実践する人物を知りメールを送った。『彼らが彼ららしく大きくなれるよう手伝うことだよ』との返事に肩の力が抜け、福田さんらしい農業が始まった。
花が咲くころにはミツバチが受粉を手伝う。樹が力強く根を張り、自らの力で水を吸うことができるようにと潅水チューブを取り払った。肥料も刈り草と町から出た魚のアラをベースにした堆肥のみ「草もここでは重要。ヨモギとスギナが多いのはブルーべリーと同じく酸性の土を好むから」。
生産者、加工者という枠を超え、自称『農家らしからぬ農家』として活動する福田さん。販売では消費者と対面できるマーケットに極力参加。食の安心安全はもとより、少しでも持続可能な世の中に貢献するためにと、近隣地区の農家と協力し、食育や環境教育、農業体験、地域おこしなどに精力的に取り組んでいる。「先日行ったハーブのワークショップでは、大人も農場の地面に這いつくばって真剣そのものでした。小さな草や虫からも学ぶことはたくさんあります。子どもたちにもそうしたことから何かを感じてもらえたら」と次世代に繋いでいる。