奈良県東端部に位置する御杖村を、一人の主婦が変えようとしている。2009年1月、御杖ふるさと交流公社に、初の民間公募支配人として就任した安田智子さんだ。
同公社は、「みつえ温泉 姫石の湯」や「みつえ体験交流館」などを通じて、御杖村の魅力を内外にアピールするところ。「長女に背中を押されて受けたんですが、まさか通るとは」と、思いもしなかった道が開けた。
生まれは宇陀郡菟田野町(現宇陀市菟田野)。高校を卒業し、南都銀行に勤めたが、第三子出産を機に退職。その後は子育てのかたわら、地元のケアハウスに勤めるなど、関わった職業は10種以上。一方で、生まれ育った菟田野で若者が減り、徐々に活気が失われていることから、地域で何かやってみたいと、いくつもの地域活動にも参加してきた。
最初に参加したのは「宇陀の神話を考える会」。『記紀』に記される神武天皇東征や壬申の乱の舞台などを回った。「知らなければ何気なく通り過ぎてしまう場所に、歴史や伝説がある。新たに何か作るより、今あるものを見直すことから始めるべきだと感じました」。その後も、うたの夢街道や古民家を大切にする会、奈良2010年塾など、興味あるものにはちゅうちょせず参加した。全部が全部満足には出来なくても、その中から地域を見直すことを意欲的に続けた。
新たなスタートは、菟田野ではなく、御杖。だが持っている課題は同じだ。初めての土地、初めての責任者というポジション、初めて会う部下たち。もちろん最初からうまく行ったわけではないが、まずは職員に教えを請うことから始めた。目指すのは、「お客様がのんびり、ゆっくり出来る場所」、大切にしているのは、来場者とのコミュニケーション。激務の中、いくつもの地域団体にも関わるが、「自分が楽しいからしてるだけです」と気負いはない。
今精力的に取り組んでいるのは、地域の人に参加してもらって行うイベント。昨年の勤労感謝の日には「輝老感謝の日」と題し、姫石の湯のステージで、古い着物を仕立て直した洋服のファッションショーを行った。モデルを務めたのは村の高齢者20人。「この年になってモデルなんて」と参加者にも楽しんでもらえ、観客にも大受けだった。また、キャンドルイルミネーションなど、限られた予算の中で、出来ることは次々とやってみようと思っている。
「あらゆる場所に魅力があります。引き出すことさえできれば、地域はもっと元気になる」。年があけ、安田さんは次の仕掛けを考えている。おそらく、誰よりも安田さん自身が楽しみながら。