都祁吐山町、山間の吐山すずらん群落地を目指して坂を登って行くと、黄色い小屋が見えてくる。ここが有機農業を実践している「つかはら自遊農園」だ。
笑顔で出迎えてくれた代表の塚原省一さんは千葉県出身。もともと自然食品を取り扱う会社に勤務していた。たくさんの農家の人と触れ合ううちにあこがれを抱くようになった。「自分でもやりたい、土に触れて生きたい」と農地探しが始まった。
各県の農業会議に問い合せ、偶然奈良県が紹介した都祁村の国のパイロット事業により山肌を削って農地としたこの場所が気に入った。「有機農法をすると決めていたので、農薬を使わず害虫が出た時に、他の田畑に被害の出ない場所というのが条件でした。都祁という地名すら読めなかったが、集落の一番上、木々に囲まれた立地と、晴れた日には遠くの山々まで見渡せる景観の素晴らしさが気に入りました」。
農地が決まりいよいよスタート。と思われたが、山肌を削っただけの農地には石がゴロゴロ。「見えている石が小さいと思っていたら大間違い。氷山の一角。掘れば岩のような石や、次から次へと見つかる石。何個も掘り出しました。今じゃ農園の石垣となってます」。石との戦いの日が終われば、土との戦い。やせた土でも育つさつま芋でさえ育たない状態だった土に、化学肥料を使わず、鶏糞、牛糞、モミ殻などを混ぜ一から土作り。まともに作物が収穫できるようになるまで6〜7年かかったそうだ。「今でも雑草や虫、モグラ、猪などと毎日戦いですが、間にあいませんね」と話しながらも虫退治に余念がなかった。
田畑と共に、この農園では約1500羽の鶏を飼育している。ここの鶏たちはビックリするくらい人懐っこい。怖がりもせずに人に寄ってくる。「毎日見回っていると鶏だって懐きますよ。僕の足にまとわり付く鶏もいますしね。」自由に歩き回れる広い鶏舎でのびのびと暮らし、くず米やゴマなどを自家配合した飼料を食べて育った鶏の卵は、臭みがなく、味は濃厚、箸で黄身がつまめるほどの弾力がある。
野菜と共に奈良や大阪のレストランなどで使われ、自然食の店や道の駅などで好評のようだ。「安全な飼料を食べて育った鶏、その卵はおいしく、糞も良質な堆肥となります。良質な堆肥で育った野菜はまた格別」。
現在、塚原さんの元には2人の研修生がいる。ここで有機栽培を学び、独立するためだ。今までにも何人もの研修生を受け入れてきた塚原さん。「ここ何年かは若い人が増えてきました。有機栽培は手間がかかります。出荷量が安定しないのも大きな課題です。そのぶん良い物が獲れ消費者の方に喜んでもらえた時の喜びはひとしおです。農業の魅力を知った若い担い手がどんどん増えていって欲しいですね」。消費者にも、作っている人や、どんな場所で、どうやって作られているのか農を知って欲しい。みんなに来てもらって、一緒に『農』と遊ぼう!『つかはら自遊農園』にはそんな思いが込められている。