春日山の東側、緑広がる田原の里に自然農法を実践している大和茶畑がある。この畑の成長をやさしく見守るのが、田原ナチュラル・ファーム代表の高島佐和さんだ。
高島さんの茶畑は、農薬も化学肥料も使わず出来るだけ自然に近い環境で野菜を育てる自然農法。茶畑でよく見かける黒いネットも扇風機もなく、土はふわふわ。鹿のフンやイノシシの掘った穴、肥料にした卵の殻などが足元に。
「お茶も野菜も人と同じ、過保護すぎても良くないんですよ。自分で生きようとする力が根を張り、花を咲かせるのです。私は少しだけその手伝いをしているだけです」。
農業とは無縁の家庭に生まれ育ち、デパート勤めをしていた20代半ば、「暑い時は暑い、寒い時は寒い。生きている実感がほしい。」と思い悩んでいた時、ふと手にした本に書かれていた“農業体験をしてみませんか?”の記事。1週間ほど休暇を取り彼女が飛び込んだ先は鹿児島県・沖永良部島。ここで初めての農業体験をした。
短い時間だが島の自然、土、人に触れ、汗をかく喜びを知った。その後も各地で農業体験を積み重ね、農の魅力に引き込まれていく。「農業へのあこがれが目標になったきっかけは勤務先の倒産でした。今しかない!と、リュックを背負って旅に出、各地の農家さんの仕事を手伝わせていただきました」。
1年後、奈良に戻り自然食レストランで働き始めた。この時、店の近くにある天然自然農法会歌姫農園の阿藤鋭郎氏に出会い師事する。
氏の下で自然農法での野菜やお茶の栽培を学んだ高島さんは独立し、「毎日飲むお茶だから、自分で作りたい」と大和茶畑が広がる田原の里に、田原ナチュラル・ファームを開いた。村には後継者が少なく、何十年も放置された茶畑がいくつもあり、その土地を借り再生することに。周りの人々の協力もあり、試行錯誤を重ねながら無事5年目を迎え、緑の畝打つ茶畑になった。
今は3つの茶畑と2つの畑を借り、まだメンバーは少ないが賛同してくれる女性を募って生産から販売まで一緒に取り組んでいる。また奈良市茶生産青年協議会の副会長として茶農家の人たちと大和茶の普及に努めている。
話をしながらこの畑でとれたお茶“ゆい(結い)”を入れてくれた。「農業って1人じゃないんです。近隣農家さんや畑の仲間、みんなが助け合って、喜びも分かち合う。人だけでなく草や虫、植物や動物もみんな同じこと。生きるものすべてが“結い”の精神で共存していける世界になれば」。
太陽の日差しをたっぷりあびた“ゆい”は、ほのかに甘くやさしい味がした。