2009年の1年間、伝統野菜の絵で『yomiっこ』の口絵を飾っていただいた榎森彰子さん。大和の伝統野菜や野の草花の語らいに耳を傾け、その生命力をキミ子方式で描いた絵と、ほのぼのとした言葉を添えたものが好評をいただいた。
伝統野菜に取り組むきっかけは10年前。農家レストラン「清澄の里 粟」(奈良市高樋町)を拠点に、大和の伝統野菜の栽培と保存・継承に力を注いでいる三浦雅之さんと出会い、「伝統野菜のある地域には、パワーがある。そこに暮らす人々の心とエネルギーが野菜の伝承とともに伝わっていっている」という言葉に強く同感。粟の農作物の提供も受け、伝統野菜を描くようになった。野菜たちの「見て!食べて!描いて!」との主張に、「今では三浦さんと“伝統野菜の僕(しもべ)”だねぇって言ってるんです」と笑う。
幼少時、股関節脱臼をわずらい、家で出来ることをと親が与えてくれた数々の手習いの中に絵があった。中学・高校時代は漫画家を志しもしたが、短大で油絵の基礎を学び、イラストレーターに転向。キミ子方式との出会いは、公民館から子ども絵画教室の依頼が来たとき。
何か面白いやり方はないかと模索するうち、図書館でキミ子方式の本を見つけた。キミ子方式とは絵が苦手な人に合わせた手法で、描けない理由を省いていって生まれた描き方。絵の指導は、描きたいと思ったものを描けるよう、その表現に行き着くアクセス法を手伝うだけ。上手下手ではなく、本人の納得度や幸福感を重視する。
今でこそ人前で話せているが、小中学生時代は赤面症で不登校気味だったり、子育ての悩みに明け暮れたりした時期もあった。何とか克服しようと親業カウンセリング手法を取り入れた親と子のコミュニケーションスキルやフェミニストカウンセリングを学び、困難にぶつかったときも自分を客観的に見つめる力を得た。
「絵のモデルはその辺にあるもの。でも雑草一本にも“旬”があり、それぞれ自然の営みに懸命。私たち人間と同じで、かけがえのないものです」と、生き物すべてを慈しむ眼が優しい。
教室ではとにかく楽しい時間をと心がける。おしゃべりの花を咲かせながらモデルの野菜と遊ぶ人、スニーカーと向き合う人、様々だ。いろいろな悩みを抱えた人もいて、中には介護で疲れている人が「ここの空気に触れていたいから通っています」と。
「絵が無くったって暮らせるけど、描けたらより楽しいのでは」と、描く楽しさを幼児から高齢者まで分かち合う榎森さん。「“芋の絵描き”と言われているほど芋のモデルが多いんですが、“芋絵描き”とは言われないようがんばりますね」。