二上山の麓、香芝市鎌田に伝統的な酒造方法を守りながら、地元の自然の恵みを生かし、若い感性で新たな酒造りに挑む大倉本家がある。江戸時代に建てられた自宅兼事務所はかやぶき大和棟。土間にはかまどがあり、湯を沸かすなど今でも毎日使われている。
明治29年創業の大倉本家は、室町時代から奈良に伝わる水もとによる酒造りを続けている。昭和3年から、平成12年に3代目である父・勝彦さんが病に倒れ、蔵が休造となるまで、奈良県の神社庁の委託を受け御神酒として納めていた濁酒を製造していた。
横浜で会社勤めをしていた隆彦さんは、伝統を絶やしてはいけないと、酒蔵の再開を願い病床の父を何度も説得。「父は造り酒屋の厳しさを知っているし、廃業を決めていたので、説き伏せるのには苦労しました。半ば反対を押し切って再開させた感じでしたが、1期目を見届けてくれました」。
長年蔵を支え、休造中も再開を信じて待っていた杜氏たち、商社の営業マンだった義兄など、周りの人々の協力で3年ぶりに酒造りを再開させた。「ここからはえらいこっちゃでした。酒造りは素人でしたからね。日々工程は変わるし、何が起こるかわからない。見聞きする事、感じたことすべてが勉強、今では寝ても覚めても酒のことでいっぱいです」。
代々守られてきた室町時代の製法「水もと仕込み」を後世に継ぐべきと、2年目に濁酒を復活。この酒は蔵の壁や道具に住み着く天然酵母を用い酒母の育成段階で生米を使用するのが特徴。もろみがそのまま入り、飲むというより食べる感覚の深い味わいだ。その他、大倉本家の代々の味「金鼓」、去年よりも良いものをと進化していく「大倉」は、通常の倍以上の時間と労力をかけ自然の乳酸菌の育成を導く山廃もとという酒母を使用する「山廃仕込み」で造っている。「手間隙はかかるが、これが大倉本家のこだわりであり、この蔵でしか出せない味」。
2009年6期目を迎える4代目は、7年ほど前から蔵の近くでヒノヒカリを育てている。「ここから見る二上山が一番好きなんですよ」と、田んぼに案内してくれた。以前はトラクターの乗り方さえわからなかったそうだが、空を見て「明日はかなり雨が降りそうだ」と溝に土のうを入れるほどに。
秋に収穫される自家栽培の米はタンク1本分になるそうだ。「地の米、地の水、地の風土、メイド イン 鎌田!」。11月、今年も大倉本家の酒造りが本格的に始まる。