「剣豪の里」、奈良市柳生。広々とのどかな里山は、新緑が痛いほどまぶしい時期。この里を愛し、里山保全の体験教室を行っているのが、きたうら由香さんだ。名前は『自由空間ねん』。自然の「然」をとった。ものづくり、ネイチャーハイク、ホタル鑑賞、野菜や米の栽培、収穫作業、陶芸教室など一年にわたり自然体験プログラムを組んでいる。
柳生は生まれ故郷だ。夏は大和茶、冬はいちごの栽培に従事してきた両親の姿を見ながら、自然の中で育ったきたうらさんは、京都の大学を卒業後、北海道稚内の小さな学校の教師になった。
小・中併置校で、全校児童・生徒がたった10人。上級生が下級生を見るのは当然で、まるで家族のような学校だった。「それに、田舎ではすべて学校を中心に村の事業が組まれます。地域全体で子どもを育てている感じ。最近、田舎の学校が閉校していっているけれど、どんなに人数が減っても学校がある方が地域は活性化されます」。
そんなアットホームな場所で8年過ごしつつ、休みには各地を旅した。「学生時代からずっと日本中、放浪の旅をしていました。北海道に住み着いたのもその延長線上かな」。
何が自分に合っているのか…。流浪の旅も、稚内の奥地で教師をしたことも、全部自分探しだったと語る。障がい者や在日外国人を教える機会もあった。そのうち自分の居場所が見えてきた。
「学校ってやはり管理教育で、子どもを成績で評価しなくちゃいけない。成績には結びつかないけれど、愛すべき子どもたちがいっぱいいました。そんな子が成績だけでいじけていくのを見て、何とか助けられないかなと思ったのです」。
決意して学校を退職。フリースクールへ行っている子でも障害を持っている子でも、外国人でもどんな子でも自分らしくいられる場を作ろうと、故郷へ帰り、体験塾立ち上げに力を注いだ。
陶芸家の妹にも助けてもらって、まず野外陶芸教室を開催。最初は2〜3人の参加だったが、口コミで少しずつ増え、さらに奈良NPOセンターとのタイアップで、順調に人数が集まるようになり、体験メニューも増やしていった。
基本は自然に身を置くこと。親には手を出さないでとお願いしている。「包丁も持たせます。ちゃんと教えればケガなんかしません。子どもがやりたいことを達成するために陰で支える大切さを親御さんも気づいてくれます」。
自然の力はすごい。心が病んだ子も元気になって帰っていく。弱かった小学生がいつのまにかたくましい中学生になって、下級生の面倒を見る。「冬は冬できちんと寒くなって、きんと冷える日があって…。そんな日があるから自然淘汰され、食料も保存できる。自然の営みがきちんとあること。それを子どもたちにぜひ知ってほしい」。
家の裏山を案内してくれた。「自然に身を置くと、自分も自然の一部なんだと感じます。その瞬間が好きです」。