関西のマッターホルンと呼ばれる名峰・高見山の近く、悠久の山々が連なる一角に桜の園が、今年も見頃を迎えようとしている。東吉野村杉谷地区の標高650mの地、5年前に植えられた1000本余りのしだれ桜が、手入れの甲斐あって樹形も花付きも見事になってきたものだ。「高見の郷」と名づけられた他に類を見ないこの園の花咲爺は島崎章・照章親子。
二人は、林業不振で植林や世話が追いつかず地肌を見せる山が増えてくる中、環境保全からも、また先祖伝来の山林の緑を守りたいとの思いから、桜の園を計画。桜の種類を、寿命百年ぐらいのソメイヨシノと異なり手入れ次第で何百年も咲き続けるしだれ桜とし、全国から優良株を求めて植樹した。「杉やヒノキは百年単位の仕事、何代も先でないと結果が見えないが、桜なら皆に楽しんでもらえるし収入にもつながる」と、代々の林業続行の一方でこの観光林業に踏み切った。
植樹や遊歩道などの基礎工事は専門職によるものだが、樹形を整える養生や肥料やりなど桜自身の世話と、雑草刈りやこまごまとした環境整備などの仕事は年間を通して山ほどある。地元のシルバー人材を活用する一方で、父章氏の高校同窓生たちのシルバーパワーが強力な味方に。東住吉高校時代の友人たちが県内外から駆けつけ、準備段階から率先して作業を手伝った。
「ここに来るとマイナスイオンやオゾンがいっぱい。元気になりまっせ」「桜は手入れするほど美人になるんですわ」と、口を揃える笑顔がいい。今でもオフシーズンは週3回、開園時期には泊まり込みで、駐車場係や遊歩道案内役などのボランティアを買って出る。無報酬だが、昨年建てたバンガローで鍋やバーベキューを囲み、春は太閤秀吉気分、夏は満天の星の下で暑さ知らず、秋は桜の紅葉、冬は雪景色満喫と、“毎日が日曜&同窓会”を楽しんでいるのだとか。
最初の数年間は、20年・50年物の桜以外は余り見応えがなかったが、昨年から若木の樹勢もよくなり、観光バスも入るほどになった。遊歩道は入り口から頂上まで上り坂600m。多少息を切らせながら行く桜のアプローチ道だが、下りてくる人々が口々に「来てよかった。まさに“絶景かな”でした」と。高齢者など足腰の弱い人用には送迎車(要森林協力金)を用意。涙を流して喜んでくれた老婦人もいたそうで、障害を持つ人たちへの特別招待なども検討中とのことだ。
また、掘り当てた天然の湧水は、国道166号線沿い入り口に誰でも無料で汲めるようにしてあり、訪れる人が後を絶たないほどの人気。4月〜5月の青空の下、濃い緑の山並みのなかに、遊歩道に沿って植えられたレンギョウの黄やユキヤナギの白に濃淡のピンクのしだれ桜の饗宴は、まさに“天空の庭”だ。
「子々孫々守り継いでいってくれたらと、“千年の丘”と呼んでいます」と章氏が言えば、「まずは“島崎家百年の計”と、父と僕、そして1歳の娘、そのまた子どもへと、桜の名所が継がれていくよう、今をがんばりたいです」と、広報部門等担当の照章代表が頼もしく語った。