奈良県の東部にある山添村で、1日1組限定の農家民泊を始めたのが、大久保利洋さん一家だ。
農家民泊は、文字通り、農家で泊まる宿のこと。奈良県が認定システムを作り、新たに認定された1軒となった。県内ではまだ5軒しかない。山添村では大久保さんが初めてだ。「オープンしたんですが、まだ知られていなくて」と照れながら案内してくれたのは、納屋を改築したという、いろりの間。炭がいい具合にいこっている。「食べてみてください」と、どっさり野菜が出てきた。
大久保さん自慢の無農薬野菜だ。ピーマン、オクラ、ナス、ニンジン、なた豆、ししとうに、平飼い(放し飼い)の地鶏を炭で焼いてくれる。すべて豪快に丸のまま焼いて、塩や醤油でいただく。甘くて軟らかくて、ナスもピーマンもへたまで食べてしまった。にんじんは土をはらって生のまま丸かじり。
続いて野菜の天ぷらや、煮物、佃煮など食べきれないほど出てきて、〆は米から炊いた自慢の茶粥。化学調味料は一切使わない。砂糖も控えめのヘルシーメニューだ。野菜がメイン、冬はいろりを囲んで鍋メニューも。寝室は母屋の座敷、大久保さんらは別棟で寝泊りする。
家の下に広がる畑には、野菜のほか、お茶、コンニャク、ゆず、山椒など様々なものが植えられており、すべて食卓に並ぶ。土からこだわって作り続けている野菜をいただくと、野菜本来の味に感動し、体の細胞から元気になっていく気がした。
「安全・安心なものを作りたかったんです」と語る大久保さん。出身は岡山県矢掛町で、29歳の時、大和郡山市の酒屋を開業し、結婚後、35歳から農業を始めた。
「小学生の時、農薬が川に流れて魚が全部死んで浮いていたニュースを知り、ずっと気になっていたんです。自分の目で確かめたものを口にしたいと思ってきました」。6年後、妻和美さんの実家である現在の家に移り、酒屋を開業するとともに、一層農業に力を入れ、土づくり、肥料づくり、雑草や害虫などとの関わりを研究してきた。
虫や生物とは共存共栄していくのが自然界の摂理と、彼らが食べる分もと思って作る。雑草にも役割があるからと、むやみに抜かない。「そろそろ限界かなと思ったら、お願いするんです」と畑の中で指差したのは、サトイモの前の小さな看板。「モグラ様へ サトイモとらないで下さい」とある。「看板を立てたらとらなくなります。言霊っていうでしょ。言葉は生き物に伝わります」。
民泊は「ぜひ野菜本来の美味しさを多くの人に味わってもらいたい」との気持ちから、開業にふみきった。体験も出来る昼食日帰りプランも用意。体験は、野菜収穫ほか、茶摘み、きのこ狩り、草もち・かきもちづくり、芋ほり、稲刈りなど一年を通して楽しめる。
「テレビも何もないところで、自然のすばらしさを実感しにいらしてください」と大久保さん。百聞は一見に如かず。大久保さんと野菜に元気をもらいに行こう。