「今日は笠置でカヌーに乗ってるよ」という東久保さんを撮影しに木津川へ。筋肉でひきしまった体は、とても66歳とは思えない。上流から楽しそうに漕いで来る表情は、まさに少年だ。
自分だけでなく、皆にもそんな思いをしてほしいと東久保さんが始めた奈良自然塾には、ありとあらゆるアウトドアプログラムがある。カヌー、スケッチ、山歩き、焚き火塾、古道歩き、雪山トレッキング、探鳥会、ラフティング、はてはヒマラヤ登山まで。会員になるとどのプログラムも実費で自由に参加できる。
8年で行ってきたプログラムは500近い。それらの企画、バスの手配から会員への案内まですべて東久保さんが一人で行っている。仕事じゃないからと実費しか徴収しない。一人で下見をし、本番もすべて東久保さんが同行する。おまけに参加者の撮った写真を使ってブログに紹介する手の込みようだ。
旅行会社では成し得ない手作りのプログラム、格安の料金設定、初心者や中級者など段階を追って参加できるプログラムの幅の広さ、あくまで無理しないコースづくりなどが人気を呼び、口コミでどんどん増えて、今では会員が200人を超えた。
東久保さんはアウトドアの達人であったわけでも、スポーツ経験者だったわけでもない。50歳までは仕事づけ。週5日は深夜帰り、毎日睡眠4時間という会社人間で、運動とは縁遠い毎日だった。40歳で友人と会社を設立、50歳の時に、椎名誠や野田知佑にあこがれ、思い切って木津川でカヌーを始めたのがアウトドアへの入り口だった。
次に自分で仲間を集めてスケッチ旅行などをしてみたら、思いのほか皆に喜ばれ、それならそんなツアーをどんどん作って、少年少女に戻ってもらおうと、58歳で会社を早々に辞めて、塾の設立に至った。
「自分が教えるというよりも、皆と一緒に現地で体験して覚えたり、思いついた楽しいことをどんどん企画してやってみたりの積み重ねです」。
すでに琵琶湖は一周230kmを5周した。何も運動をしていなかった東久保さんが、自然塾を始めて一度も風邪をひかず元気に過ごしてきた。東久保さんだけではない。会員の皆も、体調がよくなった、体力がついたと成果は大きい。その東久保さんが、昨年秋に大病を患い入院、手術し、3か月休塾にした。
「そのとき会員の皆さんから、『自然塾が生きる喜び』とか『自然塾のスケジュールを最優先して過ごしている』といったたくさんの励ましの言葉をいただき、やっててよかったとうれしくて、よけい元気が出てきました」と振り返る。
復帰後は、無理をしないようにと、これからは、たこあげや紙ヒコーキ大会、つるし柿づくり、ホタル見物、キムチづくりなどを組み込んで、楽しくやっていくつもりとのこと。
「風の音や匂い、木々の緑、鳥の声・・自然の中につかると心身ともに元気になります。特に奈良には誇れる自然がいっぱい。皆さんの知らない奈良を、もっともっとおもしろく楽しく案内していきたいです」。