当麻寺中の坊の庭園で、見事な尺八の音色を奏でるのは、アメリカ人のジョシュ・スミスさん(写真)。6月16日、同寺の「中将姫髪供養会」で、他の奏者と奉納演奏する予定だ。その後、シドニーで行われるワールド尺八フェスティバルの、S-1グランプリ青年の部・決勝に出場する。
二上山の麓、葛城の當麻駅近くで日本人の妻と二人暮らし。現在、大阪大学大学院博士後期課程で文化社会学の研究をするかたわら、尺八研究及び奏者として、各地で講演や演奏を行っている。
出身はニューヨーク州バッファロー。日本に住んでもうすぐ10年だ。高校生の時に合気道を習って日本に興味を持ち、大学3年生の時に日本に1年留学。卒業後、再来日。兵庫県小野市で3年間中学の英語教師を務め、その後大阪大学大学院修士課程に入った。
小野では居合い道を習い4段まで進んだが、大阪に引っ越したため通えなくなり、新しい習い事として見つけたのが尺八だった。岡田道明氏に師事。楽器はまったく初心者だったが、めきめき上達。今では公演のほか、家で尺八道場も開いている。
譜面はもちろん日本語。それも、伝統の尺八曲である尺八本曲を数多く手がける。「尺八は竹に5つの穴を開けただけのシンプルな楽器。なのに深い音、高い音など、最も豊かに感情表現できる。そこが魅力です」。
特に呼吸がポイントで強い息は要らないが、腹式呼吸と胸式呼吸を使い分けるテクニックが必要なのだと。体全体で演奏する楽器なので、毎日ジョギング、筋力トレーニングなどで体を鍛え、5〜7時間の練習も欠かさない。
2年前には武者修行として、尺八一本持って、四国八十八か所1400キロの歩き遍路を実行、1か月半にわたり、すべてのお寺で奉納演奏をした。
「元々尺八は、虚無僧が仏様にお経の代わりに音を捧げていたもの。奉納演奏することで、その気持ちを感じ取ることが出来るのではと」。
寝泊りはテントで野宿、歩き終えたときには人生観が大きく変わっていたという。「今までいかにムダなものが多いかに気づきました。自然と一体となり、身も心もシンプルになった自分を感じ、それが後の生き方の基本となりました」。
奈良に引っ越したのは2007年だ。大阪の喧騒に夫婦とも疲れて、やすらげる場所を探してあちこち歩いてみた。その結果、奈良が気に入り、それも山々が近い葛城を選んだ。家の窓から二上山が見え、当麻寺には毎日ジョギングで訪れる。そこでの演奏は願ってもないことだった。
「仏様や聞く方の心にしみじみと訴えかける演奏をしたいと思っています」。