奈良県五條市、葛城金剛山麓線から少し入ったところにログハウスの農家レストラン「ばあく」がある。隣接するのは手作りハム・ソーセージ工房。この道20年の泉澤ちゑ子さんとスタッフが手際よく豚肉をさばき、ソーセージを作っている。
「この豚はね、主人と息子が経営している泉澤農場の豚なんです。豚って捨てるところないんですよ。丹精込めて育てた1頭の豚を大切に食べきる。それがうちのモットーなんです」。これらはレストランで出されるほか、商品としてばあく会員のもとに届けられる。
泉澤さん夫婦は、結婚後、大阪に勤務、在住していたが、百姓をしたくて30年前、夫・光生さんの両親の住む実家に戻ってきた。家業は柿・米・豚が3本柱。光生さんは天候に左右されない豚を大きな柱にしようと豚舎を改築、本格的においしい豚肉の研究を始めた。
一方、子どもたちのアトピーに悩んでいたちゑ子さんは、「農家なんだから自分で作ればいいんだ」と畑で無農薬の野菜づくりを開始。にわとりも飼い、飼料に配慮した卵を作った。安全な野菜や卵を求める主婦たちに口コミで知れ渡り、橿原まで出張販売に。出荷量に左右されないように、月会費制の買い支えシステムまで出来た。次は、軌道に乗ってきた豚肉で無添加のハム・ベーコンを作ろうと決意。仲間たち17人でお金を出し合い、「ばあく」がスタートした。
だが、最初は大変だった。スモークを効かせすぎて臭かったり、塩を効かせすぎて辛かったり、橿原の主婦たちにも協力してもらいながら、2年間試行錯誤を繰り返し、やっと製品化までこぎつけた。橿原の会は、「泉澤さんちの豚肉を食べる会」に変身。
その人たちの口コミや、安全・安心な豚肉やハムということで新聞にも掲載され、全国から注文が入るように。豚肉は霜降りでほんのり甘くて香ばしいと定評がある。「注文分だけ作る慎重さが、よかったんでしょうね。でもど素人でも一歩前に踏み出すことで、見える景色が大きく変わってくる。それがおもしろいんです」。
泉澤さん夫婦のもう一つの取り組みは、地域の生産者の連携だ。10年前から、山麓線に点在する農園、豆腐屋さん、パン屋さん、工房などが集まり、「食の乱反射の会」を結成。月1回、第3土曜日に皆で直売イベントをし始めた。ただイベントをするだけではなく、たとえば南農園で作った赤米で、YUMYUMがパンを作り、そのパンとばあくのハムを合わせてランチで売る、といった食の連携がとれるようになった。「大切なのは人のつながりです。また、豚を通して、特に子どもたちに命をいただくとはどういうことかも発信していけたらいいなと思っています。やりたいことがたくさんあってワクワクします」。
ばあくには美味しいランチや豚肉と泉澤さんの元気を求めて、今日も各地から人が訪れている。そろそろ新緑の美しい季節。のんびりしに行こうかな。