奈良の特産品、柿の生産全国一を誇る旧西吉野村。そこで農園業を営む4代目の熊代敬三さん。。柿3.5ヘクタール、梅3.5ヘクタールを管理する。
3月は梅の花が一面に咲き香り、近づく春に心躍る季節だ。4月になれば、つぼみをつけた柿の、つぼみとり作業に追われる。柿の実を大きく作るために、一枝に7〜8個ついたつぼみを一個にする。6月は梅の実の収穫作業。7月はまだ青い柿の実をさらに選別、悪い柿を落とす。9月から刀根早生柿と呼ばれる渋柿の収穫、その後は富有柿の収穫、冬は梅の天日干し作業、剪定など、一年中休むまもなく作業に追われる。
敬三さんは、熊代家の3男。大学を卒業後、大阪で就職、呉服の営業についた。が、兄2人が家業を継がず、街中の賑やかな仕事から一年も経たないうちに呼び戻された。「兄らが継がないなら、仕方ないかなあって。まあ周りの同級生も継いでたし、元々都会より田舎が好きやし、西吉野が好きやから」。
せっかくやるのなら、前向きに夢を持って楽しくやろうと、従来の農地に国営農地を買い足して増やし、師匠である父と一緒に、梅の有機栽培を始めた。農業は子どもの頃から手伝っていたので要領はわかるが、いざ本格的にやるとなると難しい。ましてや有機栽培は、土から変えなければならない。3年たって土に化学物質がまったくなくなってから梅の木を植え、農薬を使わず丁寧に育てていく。「虫に食べられますが、仕方ない。我慢比べです」。雑草も、除草剤は使えないので、半年の間に10回以上草刈りをする。農薬を使わないので、収穫量も慣行栽培の7割程度だ。
だが、安全・安心と品質のよさが買われて、奈良県のエコファーマー認定はもちろんのこと、堆肥の原材料に至るまで審査が非常に厳しいヨーロッパのECO CERT(エコサート)の認定を受け、仲間と二人で作った「大和まごころ会」からヨーロッパに有機梅を輸出している。海外で有機JAS資格を取得しているのは、全国でここだけだ。
柿も有機栽培を試みたが、現在、まだ成功しておらず、低農薬の柿として出荷。だが柿も質がいいと口コミでお客がつき、大阪や兵庫から直接農園に買いに来る。また10年前からインターネット販売も行っているが、ネットで買った人が、どんなところで出来ているのかと見学に来る人もいるという。直売を含むと、毎年10kg箱8000ケースが売り切れる。
向上心は人一倍。仲間との勉強会や研究会などを開き、熱心に研究。「でも自然相手だし、同じものを作っているのに毎年違う。何年やっても1年生です」とあくまで謙虚。今は、果樹のすきまに出来ることはないかと、花ザンショウの栽培を試みている。「農業はやり方次第で本当におもしろい。夢は、こだわりの生産者ばかりが集まった直売所を作ること。お客様の顔が見える、声が聞ける販売を目指します」。