最寄の近鉄室生口大野駅から車で20分、室生の山間、下田口に、新しくふるさと元気村・山の芸術学校がオープンした。廃校になった旧田口小学校が生まれ変わって9か月、常設から特別教室まで様々なアーティストによる教室が開かれており、誰でも気軽に体験できる。そこで教室を持つのが江本さん夫妻。夫の幸雄さんは著名な切り絵作家であり、妻の佐代子さんは地元の草木染女性グループの代表だ。
江本さんは、普段は大阪府庁に勤務する公務員。室生から片道2時間、往復4時間かけて通勤して早17年になる。元々大阪生まれの大阪育ち。室生に来たのは趣味の街道歩きがきっかけだった。「将来、子どもたちにもこの自然の中で過ごさせたい」と廃屋を購入。結婚後、二人で週末に少しずつ改修してきた。ところが村の子どもたちがいなくなり、このままでは複式学級になってしまう窮状を知り、思い切って家族全員で村に転居することを決意。妻・佐代子さんも田舎で生まれ育ったことから田舎が大好き、すんなり転居が決まった。
だが、村の生活に溶け込むには時間がかかった。「住人となるには村の役務や山里でのならわしがある。たとえば誰かが亡くなれば、その日のうちから地域の人たちで準備し、葬儀一切、土葬や野辺送りなどを行うのです。火事は消防団、道直しは地域でなど、都会では行政がやってくれることも、村では村人が力を合わせてやらなければならないことばかりです」。
しかし、そうした煩雑な村の行事に参加することで、慣れ親しむ近道になった。「10年たって、やっと住人の仲間入りが出来たかなあという感じです」と笑って話す。
さらに、室生の冬は厳しい。「家でストーブを焚いていても6度。夜暖房を消して寝ると、朝は0度以下になり、枕元の水も凍ってます(笑)」。畑は3年続けて鹿に全部食べられた。「でも何百年もこうした暮らしが続いてきたんだからそれを思うと出来ないことはないですよ」。
山の芸術学校は、廃校となった田口小学校の活用を検討した折り、旧室生村が取り組んできた文化芸術を取り入れることにしたもの。今まで自宅で美術展をしたり独自で里巡り等の活動を行ってきた江本さんを中心に、準備を進め、開校に至った。今は、地域の人たちやサポーター、アーティストたちが運営を支え、共に元気村を育てるためにがんばっている。昨年は都会の家族や外国からの来訪者も受け入れ、アート体験などを通して、山里のすばらしさを伝えるありのままのもてなしをした。
「つらい、不便だと考えたらおしまい。何でも楽しまなくちゃ。だめなところがわかれば直せばいい。直しようがなければおいといて、いいところを伸ばせばいい。あるものをどう生かすかです。村の人たちは山や畑仕事をするのでびっくりするほど元気です。空元気かもしれないけど、空でも元気が一番」。