布留の里・天理の山あいで、先祖からの山を守って暮らすのが山中きく子さん。築117年になる家屋に1人で住んでいる。.
春から秋にかけて、畑や田んぼで野菜や米づくりに精を出すが、これからは山の季節。「おじいちゃんに『寒けりゃ山行け。仕事は布子』と聞かされてました。山の仕事したら汗かくんです。だから布一枚で仕事が出来るほど暖まるということです。これから春になるまでの3か月間、下草刈りや間伐、枝打ちなどを続けます」。
山中さんの草刈りに同行した。腰にのこぎり、背中になた、手に大がまを持ってバサバサと草を刈っていく姿はとても76歳には思えない。当たり一面の草が刈られた後、小さな杉が姿を現した。「これは植えて5年目です。植林して10〜15年は、木と雑草が競争して伸びていくので、雑草を刈ってやらないと杉や桧が伸びなくて」。 1人で手に負えないチェーンソーでの大きな木の伐採などは人手を頼む。
「でも山守りする人が減ってしもて荒れ山だらけになってますよ。荒れ山と自然林は違う。自然林も手を施してこそ、山としての機能を果たすんです。昔から先祖が皆手を入れてきた。それを守らないから災害にもつながるんです」。
山中さんの山だけで30ヘクタールほどある。「昔は木を育てて売って、売ったお金でまた木を植えて山を整備してましたけど、今は木が売れません。山を守るだけ、どんどんお金がかかってしまって」。
この家は山中さんの実家だ。結婚して一時大阪に住み、4人の子どもを育て上げたが、50歳の時に両親が病床につき、単身で実家に戻った。夫は一昨年亡くなった。以来ずっとここで今の暮らしを続けている。
「”もったいない”が私のモットーで捨てられないんです」と苦笑いする山中さんの一番の自慢は、年季の入った眺望抜群の五右衛門風呂。庭の剪定枝や薪で焚く。同様に台所のかまども現役だ。「燃料費が一切要らない、これぞエコです」。
ものづくりが大好き。手作りできるものは何でも自分で作る。一斗缶の自家製燻製器、和紙を張った行灯、ついには電気工事士の資格をとり、玄関脇のサロンもほとんど自分で改装した。捨てられない足踏みミシンを使って外出着まで作る。今仕上げているのは夫の古いネクタイをパッチワークにしたベッドカバーだ。
「1人で林業を続けていくのは本当に大変。どうせやらなきゃいけないんなら楽しまないと。いろいろなことに取り組むのは楽しく暮らすための工夫かな」。
なぜここまでがんばって山を守るのか・・「先祖から受け継がれてきたものを私の代で絶やすわけにいかないでしょ。それにこうしてがんばっていたら、いざというときご先祖様が助けてくれるんじゃないかなあってね」。