奈良と京都の県境、京都府木津川台州見台に、本格的なロードレーサー向けの自転車専門店がオープンした。マトリックスパワータグ・コラテック所属のプロレーサー、辻貴光・善光兄弟がプロデュースした店だ。
店には選び抜かれたヨーロッパブランドの商品が並び、1人ひとりにあった自転車を提供するための、ポジションチェックの設備、シャワールームなど、随所にこだわりが見られる。オーナーは辻正光さん。辻兄弟の父だ。
辻さんは2007年3月まで小学校の教師をしていたが、「家族で自転車ショップをしたい」という学生時代からの夢をかなえるため、53歳で退職。本人曰く「天の声が降りてきて、決意した」2007年8月から、たった1年で開店にこぎつけた。
学生時代からアウトドアが大好き。大学3年から4年にかけて4ヶ月間、アメリカを旅して回った経験も持つ。大学卒業後、店を持つ夢はお預けにし、まずもう一つの夢だった教師になった。自転車に関わったのは10数年前から。親子でマウンテンバイクを始め、長男が中学3年の時に全国大会で優勝、長男はその後ロードレースに転向し、プロの道に。二男もそれに続きロードレーサー
になり、プロへ。2008年の国体では見事優勝を果たした。
辻さんのモットーは「とにかくやりたいことをやる」。やらねばならないことより先に、やりたいことを優先させる。小さなものから大きなものまで夢をたくさん持ち、具現化し、どんどんかなえていくのだ。
手帳が必須アイテム。常にポケットに手帳を忍ばせ、やりたいことを思いついたらどんどんメモしていく。そのメモを次に分野別に整理し、具体化していく。今すぐ叶わないものにもこだわらない。置いておいて暖める。「特に寝る直前や、朝犬の散歩中にいいアイデアを思いつくんでボイスレコーダーを持ち歩いて入れています」。
教師時代、子どもたちがいかに楽しくおもしろく学べるかを常に考えた。漢字を楽しく覚える「漢字ボウリン
グ」、創造力をかきたてる「フィクション日記帳」や社会の流通がわかる「学級内通貨システム」などのユニークなアイデアはほんの一例だ。全国で初めて小学校にゴルフクラブを作ったのも辻さんだ。
そんな教師だっただけに子どもだけでなく親にもファンが多く、突然の退職に皆が度肝を抜かれたが、今はがんばれとエールを送ってくれている。
今は大好きな自転車に毎日1〜2時間乗って、幸せいっぱいとか。「自転車はウォーキングよりも脂肪を燃焼するし、ランニングよりも膝を痛めません。高齢者で初心者の方でも、ロードレースは始められるし、自転車ならではの風景は最高です」と楽しそうに語る。
次の夢は、奈良を自転車に優しいまちにすること。奈良に自転車ロードが出来れば、環境にやさしいすてきな町になりますよ」と。自分を獏(夢を食べて生きる動物)にたとえるほど、夢を必ず実現する辻さん。自転車のまち、奈良も遠い夢ではないはずだ。